空からの贈り物




 

今日はクリスマス


街には緑や赤や金色を始め、様々な色をした樹々が、恋人達のロマンチックな夜に彩りを添えている。
そう―今日は特別な人にとっては、特別な夜なのだ。
それなのに―







 「…もういっぺん言ってみろ。銀次」
 「えっ!?…だから、今日はみんなでホンキートンクでクリスマスパーティーをして楽しく過ごそうvって言ったんだけど」
 「…っざけんなっ!何でクリスマスなんぞにアイツらと顔合わせなきゃいけねえんだ!」
 「でもオレ、行くって言っちゃったし…それに士度達だけじゃなく、夏実ちゃんやヘヴンさん達だっているんだよ?
 それにごちそうもいっぱいあるし…ねぇ蛮ちゃん、行こうよぉvそれにオレ、骨の付いたチキンに被りついてみたい〜!」

銀次が蛮の腕をぐいっと引っ張る。
 「チキンが食いたかったら、俺が買ってやるよ」
 「…でも蛮ちゃん、昨日パチンコでスっちゃって、お金無いクセに…」
 「るせえっ!銀次のクセに人の揚げ足取んなっ!」
 「いたたたっっ!痛いよぉ、蛮ちゃんっ!」
たれ状態の銀次に思いっ切りグリグリの刑をお見舞いする蛮。
―大体ここまで止めてるんだから、気付けよ!この大ボケッ!俺はお前と2人キリで過ごしたいんだよっ!
だが、蛮の心の声に銀次は気付かない。
グリグリの刑の後遺症で瞳にうっすらと涙を浮かべながら蛮を見つめる。

そう…普段は勘が鋭いクセに、こういう事には殊更鈍いのだ。
 「とにかくオレは行かねぇ!ぜってぇ行かねぇから、行くならお前ひとりで行きやがれっ!」
 「もう…蛮ちゃん、何で怒ってるの?オレ、ホントに行っちゃうよ?」
 「お〜お〜、さっさと行っちまえっ!」
蛮は小首を傾げながら自分を見つめている銀次をぐいっと外に押し出すと、わざと大きな音を立てて玄関を閉め、鍵を掛けた。
 「銀次の…クソ大馬鹿野郎っ!」
そして、蛮の投げた灰皿がガンッとドアにぶつかる音が響いたのだった。






 「メリークリスマス☆」
 「メリークリスマス♪」
銀次が着いた頃には、既に花月と士度と十兵衛と笑師が集結していた。
 「はい、銀次さん」
 「あっ、ありがとう。カヅちゃんv」
 「銀次…これも旨いぞ、食えよ」
 「士度もありがとう…あれ?マドカちゃんは?」
銀次が料理がたんまりと乗ったお皿を、嬉しそうに2人から受け取る。
 「あぁ、クリスマスはリサイタルがあるんだってよ」
 「そっか…じゃあ残念だね」
 「でもマドカとは別にパーティするから別に構わねぇよ」
照れからかぶっきらぼうに答える士度。
 「へぇ〜…きっとマドカちゃんも喜ぶねv」
銀次がニッコリと微笑んだ。

それからも色々な料理を美味しそうに食べ、皆と楽しそうに話し、笑師と十兵衛のギャグで大笑いしている銀次。
だが、何処か寂しそうだった。それは、いつも隣りに居てくれる人が、今は居ないから―。






 「銀ちゃん、楽しい?」
パーティも終盤になりつつある頃、夏実がケーキのお皿を銀次に渡しながら聞いた。
 「うん、勿論楽しいよv」
 「本当に?銀ちゃん…」
ヘヴンが疑うように聞いてきた。
 「うん…なんで?」
夏実は座り直すと身を乗り出すように前のめりになって銀次に近付いた。
 「じゃあさぁ…なんで今日、蛮さん来なかったの?」
 「えっ!?……あ、あの…実はね」
夏実の問いに銀次が、事のいきさつを話した。






 「ふ〜ん…そっかぁ…でも蛮クンの気持ちも分かるなあ」
 「えっ!?なんで、ヘヴンさん!?こんなに料理美味しいし、こんなに楽しいのに…」
 「そういう問題じゃなく、蛮さんは銀ちゃんと2人きりで過ごしたかったんじゃないの?」
 「えっ!?でも夏実ちゃん。オレらいつも一緒だし…」
 「クリスマスは特別なんですよ。だから一緒に居たかったんじゃないですか?」
いつの間にか話に花月が加わっている。

 「そうなの…?でも蛮ちゃん、そんなこと言ってなかったし…」
 「そんなこと言うワケねぇだろ?あのプライドの塊が!」
いつの間にか士度まで加わっている。

 「そうよ、だから銀ちゃんが気付いてあげなきゃ!」
 「ヘヴンさん…」
 「銀ちゃんは蛮さんに逢いたくないの?一緒に居たくないの?」
 「夏実ちゃん…オレは…」
銀次はスッと瞳を閉じ、頭の中で蛮の顔を思い浮かべた。
 「オレは…オレは蛮ちゃんと一緒に居たい!」
銀次はケーキの入ったお皿をテーブルに置くと、キッと顔を上げた。
 「じゃあ銀ちゃんは尚更、蛮さんのトコに行くべきだよ!」
 「えっ…でも…パーティ途中だし…」
 「いいからっ!そんなの気にしねぇでさっさと行け!」
 「頑張って下さいね、銀次さん」

 「士度…カヅッちゃん……うん、分かった!」
銀次は笑顔で大きく頷くと立ち上がった。
 「オレ、行って来るvみんな、ありがとうv」
 「気を付けてねぇv」
そして、銀次は全速力でホンキートンクを飛び出して行った。






そして銀次は自分達のアパートに着いた。
ホンキートンクから全速力で走って来たため、荒れた息を整えながら、銀次はチャイムを鳴らした。
だが、玄関が開かない。中からの応答も何もなかった。

銀次は持っていた合鍵で玄関を開けると、中に入った。
 「蛮ちゃん…?」
ところが家の中は真っ暗でひっそりとしていた。人の気配など何処にもなかった。
 「蛮ちゃん…?」
居ないとは思っていても、銀次はもう一度問い掛けてみた。だが、返事は帰って来なかった。
 「蛮ちゃん…ドコ行ったんだろう…?」
そう呟いてはみたものの、銀次には蛮が行きそうな所に見当が付いていた。
銀次は再び玄関に鍵を掛けると、先程よりももっと早い駆け足で走っていった。






 「やっぱりココだった」
銀次が満面の笑みを保ちながら、蛮の傍に近付いた。
 「銀次…どうしたんだよ?もうパーティーは終わったのか?」
 「ううん…まだだけど、みんなが蛮ちゃんの所に行けって…それにオレも逢いたかったから来ちゃった」
 「よく此処だって分かったな…」
 「だって…ここは蛮ちゃんが教えてくれた…オレ達しか知らない場所だもんv」
銀次が蛮の隣りに腰掛けて最高の笑みを向けた。
 「そっか…」
蛮も銀次を見ると優しい微笑みを浮かべた。
 「ねぇ…蛮ちゃん…」
 「ん…?」
 「ゴメンね。オレ…蛮ちゃんの気持ち、ちっとも気付かなくて…ホント…ゴメンね」
 「もういいよ…お前は皆で過ごすのが好きだもんな。それに俺こそ怒鳴って悪かった」
蛮が銀次の髪をわしゃわしゃと優しく掻き混ぜた。
 「それはそうだけど…でもオレは蛮ちゃんと一緒にいる時間が一番好きだよv」
自分の髪を撫でる蛮の優しい手の上にそっと自分の手を重ねる銀次。
そして真っ直ぐで綺麗な瞳で蛮を射抜いた。
蛮はその瞳に見つめられるのが弱かった。だが好きな瞳でもある。
そしてその瞳に見つめられて蛮がフッと微笑んだ。すると銀次も満面の笑みになる。
 「ねえ、蛮ちゃんvここでパーティしよv…ちょっと寒いけどvv」
 「パーティ?…食いもんも何もねえのに?」
 「えっへっへ〜v実はもらって来ちゃったんだvv」
誇らしげに笑いながら、銀次がチキンとポテトサラダとケーキを紙袋から出した。
 「これはね、みんなが持って行きなさいって言ってくれたんだv」
そう言いながら銀次が紙皿とプラスチック製のフォークを蛮に手渡した。
 「はいv蛮ちゃんvv」
 「おお…サンキュ…」
蛮が銀次からフォークを受け取ると、サラダを口に運んだ。
 「ん…まあ、冷めてっけど旨えな」
 「でしょ〜v」
銀次も微笑みながらサラダをパクッと食べた。
 「寒いけど、外でパーティってのもいいねvv」
 「…そうだな。それにこう言うのを食うとクリスマスって感じだな」
 「でしょ〜vおいしいよね〜vv」
銀次が嬉しそうにチキンにぱくっと被りつく。そんな銀次の様子を見て蛮はひきつりながら指差した。
 「お前、さっき食わなかったのか?」
 「ん…?食べたけど、蛮ちゃんと一緒だと入る場所が違うんだv」
ニコニコと笑顔を保ったまま、蛮を見つめる銀次。
 「おお…それはよござんした」
コホンと咳払いをし、少し照れ笑いをしながら蛮も銀次を優しく見つめた。
そして2人きりのパーティも終盤に差し掛かった頃、冷たくて白いモノが空から落ちてきた。
それはロマンチックな夜には欠かせない空からの贈り物―
 「あ〜っ!蛮ちゃん、見て見てぇ〜v雪だよv」
銀次はキラキラと瞳を輝かせながら、空を見上げた。
 「あぁ…道理でさみーと思ったよ」
 「もう!ロマンチックでいいじゃんvこう言うのを何て言うんだっけ…?えっと…」
 「ホワイトクリスマス―だろ?」
 「うん、そう!それそれvロマンチックだよねぇv」
銀次はさらに嬉しそうに空から落ちてくる雪を見つめていた。
そして―
 「ねぇ…蛮ちゃん」
 「ん…なんだ?」
銀次はそっと瞳を伏せながら、大切な言葉を伝えるように静かに言葉を口にした。
 「オレ…蛮ちゃんが好きだよ。大好きだよv」
 「な、何だよ…急に!?」
 「ううん…なんか言いたくなっちゃったんだv」
そう言うと幸せそうな笑顔で蛮を見つめた。
 「蛮ちゃんは?」
 「へっ!?」
 「蛮ちゃんはオレのコト好き?」
 「…んなこと言わなくても分かんだろ?」
 「でもオレ、蛮ちゃんの気持ちってあんまり聞いたこと無いもん…やっぱり時々は言って欲しいなvねぇ…好き?」
 「………キライではねぇ」
 「…それだけ?」
 「キライじゃねぇってことは…分かるだろ?」
 「ちゃんと言って欲しいのにぃ〜!」

銀次がぷうっと頬を膨らませると、蛮は可愛いヤツ―と思いながら微笑んだ。
そして拗ねてる銀次にキスのプレゼントをした。

 「ほぇ?蛮ちゃん…?」
 「しょうがねぇから、これだけは言ってやる。……オレは好きなヤツにしかキスはしねえ」
 「えっ…ってコトは!?」

 「ここまで言えば、アホなお前でも分かるだろ?」
 「うん…うん!分かったv」
頬を赤くした銀次が満面の笑みで嬉しそうに微笑んだ。
銀次の頬が赤いのは、寒いからなのか、嬉しいからなのかは、それは2人しか知らない…






―帰り道、銀次は嬉しそうに雪の上を歩いている。
そして数歩歩く度に隣に居る蛮の方を振り向き、微笑んでいる。
繋がれた手から伝わってくる銀次の優しくて暖かな温もり―
蛮はそんな幸せに心の中で静かに感謝していた。
そして次に自分の方を振り向いた銀次を優しく抱きしめると、本日2回目のキスのプレゼントをした。
 「えへvクリスマスっていいねv」
銀次が蛮の胸に顔を埋めたまま、囁いた。
 「そうか?」
蛮はそんな銀次を優しく包み込む。
 「うんvだって嬉しい事いっぱいあるもんv」
銀次が嬉しそうに顔を上げた。すると蛮が優しく見つめている。
 「俺は…」
 「…オレは?」
蛮の言葉を銀次が繰り返した。
 「俺は…お前がいてくれれば、それだけで毎日がクリスマスだよ」
 「…蛮ちゃんv」
普段は滅多に言わない蛮のロマンチックな言葉に、銀次が今日一番の笑顔を見せた。






奇跡―
星の数ほど居る多くの人との出逢いの中で、君と出逢えた奇跡―
俺はこの奇跡をずっと忘れないだろう。
この世でたった一人の愛する人。
銀次を出逢えた奇跡を―






〜Fin〜




2001/12/24作