二人の夜




 

マリーアの元で神の記述の特訓をしている蛮と銀次達。
銀次は第一段階の卵積みは楽々クリア出来たが、蛮だけは何故か出来なかった。
既成概念がある―
どうやら蛮が出来ない理由はそこらしい。


大体卵が縦に並ぶわけねぇだろ…


その蛮の既成概念が、皆に遅れをとっている大きな理由だ。






 
「じゃあ、蛮は卵の練習ねvあとの人は明日に備えて寝ましょう〜♪」
 「何ィ!?ふざけんなっ!クソババア!」

―と言いつつも、自分だけが出来ないのは自身が一番悔しかった。
何より富士山よりも高いプライドが許さなかった。
 「ちくしょう…見てろよっ!明日の朝にはてめぇら全員『あっ!』と言わせてやるからなっ!」
蛮は窓から見える月に誓った。






 「これでどうだっ!」
ゴロンゴロン…
 「ちくしょう…これならどうだっっ!」
ゴロンゴロンゴロン……
 「だああぁぁぁっっっ!ちきしょ〜!何で出来ねえんだよっ!!」
蛮はふてくされながらソファーに寝っ転がった。
寝転がりながら窓へ視線を向けると、夜もすっかり更けていた。
 「あ〜ちっくしょう!アイツら今頃、グースカ寝やがってンだろうな」
蛮はソファの上で伸びをしたその時だった。ギイッと静かにドアが開いた。
 「……」
蛮はそのドアの方向を見た。するとそこには―






 「…銀…次?」
 「えへへっv当たりvv」
銀次が微笑みながら部屋に入って来た。手にはまだ湯気の立つ温かいコーヒーを2つ持ちながら…
 「お疲れさまvはい、一休みしたら?」
蛮は起きあがると銀次からコーヒーを受け取った。
 「お、おぉ…サンキュ…」
 「どうたしましてvv」
銀次は笑ってそう答えると、蛮の隣りにちょこんと腰掛けた。
そして蛮は銀次の持ってきたコーヒーをそっと口に含んだ。
 「うん…旨いゼ、銀次」
 「ホント?良かったv」
銀次もふーふーと冷ましながら、嬉しそうに自分の煎れたコーヒーを一口飲んだ。
そんな銀次を見つめていた蛮の心は温かだった。
熱いコーヒーもそうだが、銀次の温かさが蛮の心いっぱいに広がっていったのだった。






 「でも一体どうしたんだよ?こんな夜中に…寝たんじゃなかったのか?」
コーヒーを飲み干し、テーブルの上に空になったカップを置くと、蛮は銀次に切り出した。
 「ん…だって蛮ちゃんが寝ないで頑張ってるから…オレも少しでも応援したくて」
銀次がフワリと笑う。
 「銀次…」
 「でも、久しぶりだよね。 2人きりって…」
 「そうだな…此処ントコ色々あったからな。その…お前もな…」
おそらく花月のことを言っているのであろう。
己の目の前で消えてしまった大切な友人―
明るく振る舞わなければ、崩れてしまいそうな銀次の心。
いつも元気に振る舞ってはいるが、実は誰よりも一番傷付きやすい銀次の心。
銀次はソファの上で自分の膝を抱えると顔をそっと埋めた。
蛮も口にはしないが、銀次の気持ちは痛いほど分かっていた。
そしてそんな銀次が花月を助けられなかった出来事は、ずっと今もまだ心に傷として残っているのであろう。
銀次が「神の記述」の力を他の誰よりも熱心に会得しようとしているのは、おそらくその事があるのかもしれない。







銀次は、人一倍優しい―
銀次は、人一倍泣き虫だ―
銀次は、人一倍寂しがり屋だ―
銀次は、人一倍「仲間」や「友人」にこだわる―
そしてそんな銀次を―
俺は誰よりも愛している―






蛮は顔を埋めたままの銀次をそっと抱き寄せた。
 「蛮ちゃん…?」
 「いいからじっとしてろ…」
 「うん」
銀次は蛮の胸の中で、静かに頷いた。
 「銀次…」
 「えっ…?」
 「大丈夫だから…」
 「蛮ちゃん…?」
 「俺等は無敵の奪還屋だろ?絃巻きヤローも奪り還してやろうぜ」
 「蛮ちゃん!」
銀次は優しく微笑む蛮の顔を見つめると、お返しとばかりに嬉しそうな笑顔を蛮に向けた。
 「ふふっv蛮ちゃんって魔法使いさんみたいvv」
 「えっ?」
―どういう意味だ?
蛮が不思議そうに見つめると、銀次は微笑みながら続けた。
 「だって…蛮ちゃん、オレの心の中、全部分かってるんだもんvv
 今、オレがこうして欲しいとか、こう言って欲しいとか…蛮ちゃんに全部通じちゃってるv凄いねv」
銀次はそう言うと、満面の笑みで蛮に抱きついた。
抱き付かれた蛮は照れたのか、カリカリと頭を掻くと、自分に抱き付いている銀次の顎をくいっと上げた。
そっと優しく口付けた―。
唇に触れるだけの優しいキス。
 「ふふっvvやっぱり蛮ちゃんって魔法使いさんだvv」
銀次は幸せそうに微笑んだ。




月に輝く銀次の金色の髪。
銀次の笑顔。
そして再び交わす口付け…




蛮が徹夜した本当の理由は、蛮と銀次の2人しか知らないのであった―






〜END〜