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ありふれた言葉でも |
「…で、此処に来たってワケか」 波児が銀次の前にカフェオレを置いた。 「だって思いつかないんだもん…。ねぇ、波児さん…なんかいいアイデアないかな?」 「蛮ならアクセサリーとか良いんじゃないか?アイツそういうの好きだろ?」 「うん…好きなんだけどオレ、センスないから…それにお金もあんまりないし」 銀次が寂しそうに呟くと、波児は今日の珈琲は奢りでいいぞ?…とボソッと呟いた。 「お金も掛からなくて蛮ちゃんが喜ぶ物…」 銀次が額に指を当てて、ん~っと考えていると夏実が笑顔で銀次の隣に座った。 「銀ちゃん、お金も掛からなくて蛮さんが喜ぶ物って言ったらアレでしょv」 「「……アレ?」」 銀次と波児の声がハモる。 「究極のプレゼントと言ったら、銀ちゃん自身がプレゼン…」 「あ~っ!夏実ちゃんっ!…女の子が真っ昼間からそんなっ!」 波児の声がホンキートンク内に響き渡る。 「何?夏実ちゃん何て言ったの?」 当の本人の銀次はと言えばよく聞こえなかったらしく、不思議そうに小首を傾げるばかりだ。 「もうっ!マスターったら何勘違いしてるんですかぁ?しっつれーしちゃうな!」 夏実が不本意だというように抗議をする。 「私は銀ちゃん自身がプレゼントを作ればいいって言おうとしたんですよ! ん~…例えば…ほら!ご飯を作ってあげるとか」 「…そんなので蛮ちゃん喜んでくれるかなぁ?」 「もっちろん!蛮さん、銀ちゃんが慣れない料理を自分のために一生懸命作ってくれたら きっとすっごく嬉しいと思うよv…ねっ、マスター♪」 「あぁ…そうだな」 「…そっか。じゃあオレ頑張って蛮ちゃんにご飯作る!」 単純な銀次。蛮が嬉しいと思う―と言う言葉にプレゼントが即決した。 「じゃあ善は急げだね!オレ買い物行ってくるv」 「あっ!待って、銀ちゃん♪」 夏実の言葉に銀次の足が止まる。そして銀次に何やら耳打ちをしていた。 「…それでいいのかな?」 「うん!それで蛮さんのハートはバッチリキャッチだよ♪」 夏実がウィンクをした。 「う~…さみぃ…」 蛮が少し猫背気味になりながらアパートに帰ってきた。 「ただいまぁ。銀次ぃ…」 蛮がドアを開けると良い香りがしてきた。 「あっ!蛮ちゃんお帰り~v」 蛮の存在に気が付いた銀次がひょっこりと台所から顔を出す。―と、その姿に蛮も思わず動きが止まってしまった。 「ぎっ…銀次?なんだ?その格好…?」 蛮が指さした先には、淡いピンクのエプロンを付けた銀次の姿があった。 エプロンに付いているフリルがまた一層可愛さに拍車を掛ける。 ―めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか。 蛮は心の中でガッツポーズをしていた。 「えへへv夏実ちゃんに借りたんだ……似合う?」 「似合うも何も…まるで…」 ―新婚サンみてぇだな。 蛮は仕事から帰ってきて奥さんがエプロン姿で出迎えてくれる旦那の気持ちになっていた。 ―実際はパチンコ帰りだったのだが。 「今日はね、寒かったからお鍋にしたんだvもうほとんど出来たからもう少しで食べられるけど、 蛮ちゃん、ご飯にする?それともお風呂にする?」 「何?風呂までもう沸いてんのか!?」 何から何までの新婚気分に蛮は心の中で泣いていた。 「そうだな…腹減ったから、取り敢えず飯にするか♪」 「うん!じゃあソファで座って待っててねv」 銀次がお玉を持って満面の笑みを蛮に向ける。 お玉にエプロン…典型的な新妻の姿だ―。 蛮はそんな銀次を横目で見ながら言われた通り素直にソファに腰を埋めた。 そして銀次はと言えば鼻歌を歌いながら嬉しそうに食事の支度をしていた。 しばらく新婚気分を味わっていた蛮に銀次が声を掛けた。 「蛮ちゃんお待たせv」 銀次の声に蛮も我に返ると思わず見惚れていた自分に気が付いた。 「おぁ…わりぃな。運ぶの手伝うよ」 「いいよ。今日はゆっくり座っててねv」 銀次が座っている蛮の前に鍋やら箸やら器やらを笑顔で置いていく。そして最後にコップとビールを持ってきた。 「準備おしまい!…さっ、蛮ちゃん乾杯しよ♪」 その言葉に蛮のコップを持つ手がストップする。 「乾杯…何に?」 「やっぱり蛮ちゃん忘れてる!今日は蛮ちゃんの誕生日だよv」 ―誕生日か 「…ンなもんすっかり忘れていたぜ。でもよくお前覚えていたな?」 「当たり前じゃん♪だって大好きな蛮ちゃんの誕生日だもんv」 照れもせずに嬉しそうに微笑んでいる銀次。逆に蛮の方が照れてしまい、コホンと咳払いをする。 「サンキューな銀次。……でも今更この年で誕生日って言われても」 「もうっ、蛮ちゃんってば!誕生日って言うのはね、蛮ちゃんが生まれて来た日なんだよ? 生まれて来てくれたからオレは蛮ちゃんに出逢えた…だから、オレの大切な蛮ちゃんがこの世に生を受けた この日はオレにとっても凄くすっごく大切で意味のある日なんだv生まれてきてくれてありがとう、蛮ちゃんv」 「銀次…」 銀次が満面の笑みで微笑む。 「蛮ちゃん…お誕生日おめでとうv」 「あぁ、ありがとう…銀次」 微笑みながらコップを重ね合わせて乾杯すると、カツンと小さな音が響く― 「ありふれたことしか言えなくて…ゴメンね」 銀次がすまなそうに微笑んだ。 「いや…そんな事ねぇよ。ありがとな、銀次」 ―マヂでサンキュー…銀次。 あの言葉は例えありふれた言葉でも、俺にとっては最高のプレゼントだよ…… 「でも蛮ちゃんが喜んでくれて良かったぁv最初ね、何あげたらいいか分かんなくて、すっごく悩んだんだ」 食後の珈琲を口に含みながら銀次が蛮に寄り添った。 「そっか。でも別にいらねぇのに…そのお前が祝ってくれるならよ」 蛮も銀次の髪をかき混ぜ唇を落とした後、そっと肩に手を回す。 「それでね、マスターとか夏実ちゃんに相談したら、夏実ちゃんが良いアイデアくれたんだv」 「お前…何にするかくらい自分で考えろよ」 「でも『食事にする?それともお風呂にする?』って言うのは夏実ちゃんが教えてくれたんだよ? 蛮ちゃん喜ぶって言ってて…現に蛮ちゃん喜んでたくせに…」 銀次が頬を膨らませて抗議をしたが、蛮はその言葉に銀次の肩からパッと手を離した。 「そうだよ!風呂だよ、風呂♪いい事教えるよな、夏実ちゃんもよ♪じゃあ入ろうぜ、銀次♪」 嬉しそうに銀次の腕をつかみ立ち上がらせる蛮。 「え~っ!夏実ちゃんが言ったのは、一緒にとか、そう言う意味じゃないと思うんだけどっ! ちょ、ちょっとぉ…ばっ、蛮ちゃんってばぁっ、離してよぉ!」 銀次は恥ずかしいのか、必死で腕を振り払おうとするが、力で蛮に適うはずがない。 そのままお姫様抱っこをされ、風呂場へと連れて行かれる銀次。 「ばっ、蛮ちゃんのバカァ~!」 力では敵わないものだから、必死で蛮の胸を叩き反撃する―すると。 「何だよ。俺と一緒に風呂入んのが、そんなにイヤか…?」 寂しげな紫色の瞳に見つめられトーンを落とした声に、思わず銀次も叩いていた手を止める。 「えっ…そ、そう言うワケじゃないけど…」 「じゃ決まり♪ごちゃごちゃ言うと風呂場でヤるぞ!」 どうやら演技だったらしい。 はぅ~…蛮ちゃんのえっちぃ…と文句を言いながらも、蛮にきゅっと抱きつく銀次。 「でもね、蛮ちゃん。実はねプレゼント…もういっこあるんだv」 「えっ!?」 不意を付かれた銀次の言葉に思わず蛮も足を止めてしまう。 「本当はどうしようかと思ったけど…やっぱりあげたいからあげるv」 銀次は満面の笑みで蛮の首に腕を絡めると、蛮の唇にそっと自分の唇を重ね合わせた。 「蛮ちゃん…お誕生日おめでとうv」 |
~End~ |
2002.12.17作成