ボクらだって恋をする







―なんでだろう


 最近の自分は何処か変だ―とナルトは思う。
 何故だか分からないけど、シカマルが他の人と楽しそうに話していると、胸の辺りがチクリとする。
「う〜ん…なんでだってばよ〜…」
 今もナルトの視線はシカマルへと向いている。チョウジやいのと楽しく話しているシカマルへと―。
 あのシカマルが楽しそうにアハハと笑っている。とてもとても―とても楽しそうに―。
「ああっ〜!もうっ!やめやめってばよぉ〜!」
 ナルトは頭をぐるぐると廻すと、その場を立ち去ろうとした。―が
―気になる。
 ナルトはもう一度振り返り、シカマルを見つめた。
 すると、その視線に気付いたのか―シカマルがナルトの方へとやって来た。
「どうした?ナルト」
「へっ?なにが?」
「なにがって…さっきから見てただろ?何か用なんじゃないのか?」
―シカマルも気付いていた!?
 ナルトは無性に恥ずかしくなり、思わず声を荒げる。
「べっ、別にシカマルを見てたワケじゃない…ってばよ」
「そうか?なら良いけど…」
 すると、シカマル、何やってんのよ!―と言ういのの声が二人に届き、シカマルはじゃあな―と言って踵を返そうとした。
 ―が、そんなシカマルの腕を慌てて掴んで歩みを止めるナルト。
「どうした?」
「あっ、あのさ。シカマルは今日はもう任務無いんだろ?」
「ああ…無いけど?」
「じゃあさ、じゃあさ!夜、一緒にメシでも食わねえ?」
「別に良いけど?ナルトはなに食いたいんだ?」
 問われ、ん〜と考えたナルトは大きく頷いた。
「一楽の先に、お好み焼き屋が出来たじゃんか?シカマル知ってる?」
 少し考えた後、シカマルは頷いた。
「うん…ああ分かる。先月出来たばっかのヤツだろ?」
「うん、そう!オレ、そこに行ってみたいってばよ!」
「分かった!じゃあそこの店の前で…7時はどうだ?」
「うん!いいってばよ♪」
「じゃあまた後でな…ナルト」
「うん!またな」
 微笑むシカマルを満面の笑みで送るナルト。さっきまで感じていた胸の痛みは―今はもう無い。
「さっきのはなんだったんだってばよ…まっ、いっか」
 ナルトは鼻歌混じりでその場を立ち去った。






 そして約束の時間―より少し前。ナルトは待ち合わせしたお好み焼き屋の前へと走っていった。
 すると店の前には見慣れた姿があった。シカマルだった。
「シカマル…もう来てたのか?それともオレってばもしかして遅刻!?」
 慌てるナルトにシカマルは小さく微笑んだ。
「違げぇよ…今日はちょっと早く終わったからな」
「そうなのか?あ〜、良かった!誘っておいて遅刻したらシャレにならないってばよ」
 ホッと胸を撫で下ろすナルトの頭に手を乗せ、いきなりシカマルは髪の毛を掻き混ぜた。
「…シカマル?」
 シカマルの行動に、ナルトも思わずきょとんとする。
「いや…じゃあ入るか?」
「うん!おっ好み焼きぃ〜♪」
 はしゃぎながら店に入るナルトの後をゆっくりと追いながら、シカマルも続いた。






 ジュワ〜という音と共に鉄板に焼け焦げるソースの香りが食欲をそそる。
 ナルトはクンクンと鼻を鳴らしながら、幸せそうに微笑んだ。
「はぁ〜、いい匂い…めちゃめちゃ旨そうだってばよ〜!なぁなぁ?もう食えるかなぁ?」
「いや、もうちょっと焼いた方が良いんじゃねぇの?結構お好みって焼けるまでに時間掛かるんだよな」
「ふ〜ん…そうなんだ…」
 そう呟きながら、追加を頼むわけではないのにお品書きを見ているシカマルを見つめた。そして―
「なぁ…シカマル?」
「ん?」
 名前を呼ばれ、お品書きからナルトへと視線を移すシカマル。
 ナルトはシカマルの視線を受けながら、ずっと気になっていた事を切り出した。
「あのさぁ…さっきなに話してたんだってばよ」
「…さっき?」
―いつのことだ?と首を傾げるシカマルにナルトは付け足した。
「さっきだよ!ほらっ、チョウジやいのと話してたじゃんか?」
「ああ、あの時か…なんで?」
―何故ナルトがそんなことに気になるのか全く分からないシカマル。
「別に…ただちょっと気になっただけだってばよ…ほら!シカマル楽しそうに笑ってたじゃんか?…ただそんだけだってばよ………もう焼けたかな?」
「あぁ…もういいんじゃねぇの?」
 シカマルのOKサインでナルトは食べ始める…だが、互いに無言である。
 どうやら先ほどのナルトの一言でなんとなく空気が気まずくなってしまっているようだ。
 シカマルは黙々と食べているナルトをチラッと見ると、小さく息を吐いた。
「…さっきのことだけどよ」
「……さっき?」
 久し振りに二人の中を流れた会話にナルトが顔を上げる。
「ああ…ほら、言ってただろ?チョウジ達となに話してたのか?って」
「あぁ…うん…でももういいってばよ」
 気まずくなったから話してくれるんだと思ったナルトは、なんだか自分が恥ずかしくなってシカマルの台詞を制止した。だが、シカマルは続けた。
「あれはな、すっげー下らないけどよ、チョウジのヤツがな、昨日親父さんと焼肉食いに行って大食いに挑戦したんだとよ…知ってっか?あの店の挑戦メニューの新しいヤツ」
「うん…あれだろ?30分で肉すっげーいっぱい食うヤツ…ええっ!?あれに挑戦したの?あんな無謀なのに挑戦するヤツなんか居ないと思ってたんだってばよ!」
「俺もだよ。でもそれにチョウジが挑戦してよ…しかも親父さんと一緒にだぜ?」
「…で、どうなったんだってばよ?」
 ワクワクしながら身を乗り出して聞いてくるナルト。
「それがな、見事!大成功!!」
 シカマルの言葉に仰け反ぞって驚くナルト。
「ええ〜っ…、すげーってばよ!さすがチョウジだな」
「でもよ、その後腹壊して寝込んだんだって…あのチョウジがしばらく肉は見たくないってよ」
「プッ…アハハ!すげーオチ!」
 楽しそうに笑うナルト。ようやくいつものナルトの笑顔になっている。
 そんな笑顔を見ながらシカマルも静かに微笑む。そこへ―
「シカマルじゃない?」
「いの…どうしたんだ?」
「どうしたって、お好み焼き食べに来たに決まってんじゃない!へぇ〜…シカマルとナルトがね〜」
 頬杖を突き、ニヤニヤしながら二人を見ているいの。
「なっ、なんだよ?」
「別に〜?あっ、ナルト?今日って何時頃解散したの?」
「今日?ん〜6時半頃だったかなぁ?覚えてないってばよ」
「じゃあサクラもそろそろ来るかしら…来るまで一緒してもいい?」
「うっ、うん…いいってばよ」
 ナルトの言葉でストンとシカマルの隣に腰掛けるいの。別に悪意は無いのだが―。
 なんとなく良い気のしないナルト。
「あっ、そうそう!ねぇねぇシカマル」
「ん?なんだよ?」
 思い出し笑いなのか、プッと吹き出してからシカマルにそっと耳打ちするいの。
「……なんだって!」
「え〜…なんだよ、それ」
 そう言いながらも笑っているシカマル。楽しそうに笑い合ってる二人。
 ナルトにはそんな二人がとてもお似合いに見えて来て…
「おっちゃん!ビール!」
 ギョッとしたのは勿論、目の前にいるシカマルといのである。
「お、おい!ナルト?」
「うるさい!おっちゃん、じゃんじゃん持ってきてくれってばよ!」
 やけ酒をあおるようにジョッキに入ったビールを飲むナルト。
「じゃ…私そろそろサクラが来ると思うから行くわね〜」
「おい!いのっ!逃げるなって!」
 そそくさとその場を立ち去るいの。目の前には出されるビールを次々とあおるナルトの姿が―
「おい…もうその辺にしとけよ」
 新しいジョッキを掴もうとするナルトの手を思わず掴んで制止するシカマル。だが―
「うるさい!」
 今にも噛み付きそうな勢いのナルトに、シカマルはハアッと大仰に溜息を吐く。
「…ってか、お前未成年だろ?」
―いくら注文だからって未成年にアルコールを持ってくるなよな
 シカマルは再び溜息を吐いた。そしてその結果―





「う〜…気持ち悪いってばよ」
「当たり前だ!あんなに飲めゃ誰でも酔っぱらうって」
 シカマルにおんぶされているナルトが居た。
「…なんであんな無茶飲みしたんだ?大体お前、酒とかあんま飲んだことないだろ?」
「だってシカマルが…」
「俺が何だよ?」
 肩越しに見られ、思わず視線を逸らすナルト。そしてポツリと呟く。
「シカマルってば楽しそうに話してんだもん…笑ってんだもん…」
「はぁ?」
「シカマルがオレ以外のヤツと楽しそうに笑ったり話したりしてんのを見てたら…なんかイヤなんだってばよ」
「それって…もしかしてヤキモチか?」
「ヤキモっ!…違うってばよ!そんなんじゃっ…」
 言いかけてナルトは言葉を止めた。
―そうかもしれない。
 此処の所、感じていた胸の痛み―願わくは自分の物だけであって欲しいと思うシカマルの隣。
 それはもしかしたら―シカマルのことが―
「ナルト?」
 突然黙ってしまったナルトに不思議そうに話し掛けるシカマル。
 無言の空気が深まる中、丁度良く見つかったベンチにナルトを座らせた。
「なんか飲み物買ってきてやっから、座ってろ」
 そう言いながら踵を返そうとしたシカマルの服の裾を咄嗟に掴むナルト。
「ナルト?」
「あっ…いや、ごめん。なんも無いってばよ」
 振り返ったシカマルに対し、慌てて掴んでいた裾をパッと離し手をヒラヒラと振った。
 シカマルは何か言おうとしたが躊躇したのか―何度もその動作を繰り返した後、ゴクリと唾を飲み込んだ。そして―
「ナルト…一緒に住むか?」
「…えっ!?」
 突然の言葉―しかも予想だにしなかった言葉にナルトも虚を突かれる。
 するとシカマルが慌てて訂正に入ろうと手を横に振った。
「いや、違くて…一緒に住むって変な意味じゃなくて…言い方悪りいな」
 その…と言いながら言葉を探すシカマル。
「お前が休みんときとか暇なときとか…俺に会いに来たくなったときとか…いつでも遠慮しないで来てもいいってことで…」
 自分でも気恥ずかしいのか次々と言葉を紡ぐシカマル。
「あと、俺が居なくても勝手に入って待ってていいから…って意味もあったりする」
 言いながらチラとナルトを見ると、当の本人―ナルトは嬉しそうに満面の笑みで微笑んだ。
「うん!それってばすっげー嬉しい!マジですっげー嬉しいってばよ」
「…なら良かった。商談成立…だな」
 シカマルが手を差し出すと、ナルトが嬉しそうにその手を取った。






お互いほんの少し勇気を出して歩み寄るだけで―こんなにも素直になれる


二人の間にある距離が大きく近寄った日であった。


そしてこの日を境に、二人の間にある何かが変わろうとしていた。







〜終〜







作:2005/01/12