drop







「毎度!」
 その声と共にシカマルとチョウジといのが焼肉屋を出ると、サスケとサクラにバッタリ出逢った。
「あらっ?サスケくん…とサクラ」
「いの…。何?アンタ達また焼肉食べてんの?ホント好きよね〜」
「煩いわね、ご飯食べながら明日の任務の打ち合わせをしてただけよ!それよりサクラこそ何でサスケくんと2人っきりなのよ!」
 胸の辺りで腕組みをした、いのの眉間に皺が入る。
「デートなのよv悪いわね〜抜け駆けしちゃってv」
 同じように腕組みをし、態とらしく微笑むサクラ。
 バチバチと火花が飛び散っている女性軍の横で、同じようにハアッと溜息を吐くシカマルとサスケ。
 そんなサスケにシカマルが問いた。
「今から任務か?」
「あぁ、そうだ」
 簡潔に答えるサスケ。だが、任務ならば本来いるべきはずのメンバーがひとり足りない。
 シカマルはキョロキョロと周りを見渡した後、もう一度サスケに問いた。
「ナルトは?」
「あぁ…アイツか…」
 サスケは小さく呟くとフウッと息を吐いた。そして…
「風邪引いて休み」
「えっ…風邪?」
 ナルトを探そうと見回していた視線を思わずサスケに合わせるシカマル。
 すると今まで火花を散らし合っていたサクラが割って入った。
「そうなのよ…ほら、夕べって結構寒かったでしょ?なのに寝るとき何も掛けなくて、しかも窓も開けっ放しだったんだって…
ホントバカよねぇ〜…それじゃあのナルトでも風邪引くってもんよね」
「それで…大丈夫なのか?」
 シカマルの問いにサスケは面倒臭そうにぶっきらぼうに答えた。
「今日の任務は大したことねぇから別にあのウスラトンカチが居なくても…それに本当は俺ひとりでも充分だ…じゃあな」
 そう言うと、さっさと踵を返して行ってしまった。
「またまた、サスケくんったらv…じゃあまたね♪」
 サクラは3人に手を振ると、サスケの後を小走りに駆けて行った。

―大丈夫なのか?

 先ほどのシカマルの問いは、2人の任務に対してでなく、ナルトに対してだったのだが―。
 シカマルはフウッと息を小さく吐くと、ポリポリと頭を掻いた。すると―。
「シカマル…行けば?」
「えっ…?」
「そうよ、気になるんでしょ?ナルトが…」
「…なんでそうなるんだよ?」
 左右にいる仲間の顔を順番に見るシカマル。すると、いのがシカマルの額をつんっとつついた。
「書いてあるわよ、顔に」
 慌てたシカマルは急いで服の袖で顔を拭いた。書いてあるわけないのにも関わらず―。
 それに気付くと、ごまかすように態とらしく咳払いをするシカマル。
「でも明日の任務の打ち合わせがまだ終わってねぇし…」
「だったらさっきのにしようよ?」
 チョウジがニッコリと微笑む。
「そうね、さっき決めた感じにしましょ…今から場所を変えて打ち合わせするのもメンドくさいし…ほらっ!」
 微笑んだ後、シカマルの背中を押すいの。
「その代わり、明日遅れないでよ?」
「遅れたら今度の焼肉は、シカマルの奢りだよ?」
「…あぁ、分かったよ」
 シカマルは2人に背中を向け、サッと右手を挙げるとゆっくりと立ち去った。






 ナルトが風邪を引いたと分かると、顔に書いてあると言われるほど気になり、思わず背中を後押しされるがまま来てしまったが、いざナルトの家まで行くと、チャイムを押そうかどうしようかと躊躇してしまっている男―シカマル。
「もし風邪で寝てたとしたら悪いしな…」
 フウッと何度も深呼吸をしながら、先程からチャイムの1cm手前で動きが止まっている。
「あ〜もう!こうしている俺がメンドくせぇ!」
 ガリガリと頭を掻くシカマル―だが、ついに意を決してシカマルはついにチャイムを押した。すると、何やら中からくぐもった声がした。
「俺だけど…入るぞ?」
 シカマルは一声掛け、ドアのノブを廻し開けた。すると、ナルトがベットから起き上がり、微笑んだ。
「あれ?シカマル…来てくれたのか?」
 ナルトの笑顔にシカマルは少しホッとし、ベットの傍まで歩み寄った。
「途中でアイツらに逢って聞いたんだけど…風邪だって?大丈夫か?」
 心配そうに顔を覗くと、ナルトはうん―頷いた。
「うん!こんくらい全然平気だってばよ!…と言いたい所だけど、ちょっとツレーかも…」
 ふにゃ〜と崩れ落ちるナルトをシカマルは支え、そっとベットへと横たわさせた。
「取り敢えず今日は休め…な?」
「うん…」
「あと果物持ってきたけど…食うか?」
「今はいいってばよ…」
「そうか…じゃあ剥いとくから後で食えよ?」
「うん」
 シカマルはそっとナルトの額に手を当てた。
「まだちっと熱があるな」
 そう呟くと、シカマルは持ってきた袋から林檎を取り出した。するとナルトが思い出したようにシカマルの方を振り返った。
「あ…シカマル」
「なんだ?」
 林檎を剥こうとした手を止め、ナルトの方を向くシカマル。
「あのよ、ひとつ頼みがあるんだってばよ」
「頼み?」
 うん―と頷き、スッとシカマルの背後を指さす。
「アイツらにもメシ、やってくんねぇか?」
「アイツ…ら?」
 半疑問系でシカマルが振り返ると、背後の棚の上に、金魚が2匹静かに泳いでいた。
 そしてシカマルには、勿論この金魚に見覚えがあった。
「ナルト…あの金魚って…」
「うん!この前のお祭りでシカマルが取ってくれたヤツだってばよ」
 へぇ…と言いながら金魚に近寄るシカマル。
「約束だから腹減っても食わなかったってばよ」
 あははと笑うナルト。そんなナルトにシカマルは優しく微笑んだ。

―大事にしてくれてたんだな

「なに?今なんか言ったってばよ?」
「いや…別に。餌って…この横にあるのをあげりゃいいのか?」
 シカマルは金魚鉢の横にある茶筒を取り上げると、ナルトはうん―と微笑んだ。
「でも良かったってばよ…シカマルが来てくれて」
「なんで?」
 突然言われたものだから、飛び上がりそうになる心臓の鼓動を押さえながらシカマルが聞くと、ナルトは小さく頷いた。
「そいつらのメシ、どうしようかと思ってたんだってばよ…オレってば今、自分のことでいっぱいいっぱいだから…」
「あぁ…コイツ等のメシ…ね」
 何故か少しガッカリするシカマル。だが、そんなシカマルにナルトは続けて声を掛けた。
「それに大事にするってシカマルと約束したし…」
「ナルト…」
 餌をあげ終わったシカマルは照れを隠すようにポリポリと頬を掻くと、再びナルトの傍に歩み寄った。
「もう寝ろ…俺が居てやるから」
 シカマルの言葉に、ナルトは嬉しそうに微笑んだ。
「うん!」






 どのくらいの時間が経ったのだろう…

 ナルトの部屋の窓からは太陽の代わりに月の光が入って来ていた。外からは秋虫の声が響いて来る。
 シカマルは眠っているナルトの髪をそっと撫でた。すると、ナルトの瞼がピクリと動く―。そしてゆっくりと見開かれていく―。
「シカ…マル?」
「悪りぃ…起こしちまったか?」
 ううん―と言うように首を横に振ると、ゆっくりと身体を起こす。まだボーっとする頭を振りながらナルトは窓を見た。そして―。
「げっ!こんなに外暗いじゃん!もしかしてシカマル、ず〜っと居てくれたとか?」
「あぁ…まぁな」
「ゴメン…もしかして明日…任務あったりする?」
「あー…まぁ一応あるけど…でも別に気にすんな」
「…うん」
「それに居てやるって約束したろ?」
「約…束」
 その言葉に反応するようにナルトはシカマルを見つめた。
「ナルト?」
 シカマルの呼び掛けにナルトはそっと瞳を伏せる。
「実はオレってば夢だと思ってた…シカマルが来てくれたのも、傍に居てくれるって言ったのも、ずぇ〜んぶ夢だと思ってたんだってばよ…だから」
「だから?」
 シカマルが反復すると、ナルトは伏せていた瞳を開け、ニッコリと微笑んだ。
「起きたらホントにシカマルが居てくれたから、すっげー嬉しかったんだってばよ♪」
「ナルト…」
 満面の笑みのその言葉にシカマルも小さく微笑む。
「…ところで調子はどうだ?」
「うん、寝たらだいぶ良くなったんだってばよ、ありがとな…シカマル♪」
「そりゃ良かった…ところでおじやを作ったけど…食うか?」
「おじや?うん!食う食う!オレってば、すっげー腹減ったんだってばよぉ♪」
 いつものナルトの調子に戻り、シカマルもホッと胸を撫で下ろしたように微笑むと、椅子を引き寄せ机替わりにし、その上に小さな土鍋と綺麗に切られた果物と薬を置いた。
「旨そ〜、いっただきまぁす♪」
 ナルトは目を輝かせながら器に入っているおじやにスプーンを突き通した―途端。
「げーっ!なんかすげーいっぱい野菜が入ってるってばよぉ〜」
「野菜は身体に良いんだ…特に風邪の時はバランスよく食え!」
「え〜っ…やだってばよぉ〜!」
 そう言いながら器用に避けようとすると、シカマルの瞳がキラリと光る。
「文句言うならもっと野菜入れるぞ?」
「分かった!食います!食いますってばよ!」
 ナルトは慌てて一口、口の中に頬張った。そして飲み込んだ―途端。
「うめっ!なんかすげー旨いってばよ!」
「だろ?」
「すげー!シカマルって料理も出来るんだな…すげぇよ!」
「別に…こんなんフツーだろ?」
「普通じゃねぇって!オレの方がひとり暮らし歴長いのになぁ〜」
 ちぇっと言うように口を尖らせるナルトを見つめフッと微笑むシカマル。
 口を尖らせていたナルトも、直ぐに笑顔になる。そして―。
「じゃあさじゃあさ、今度は御礼にオレがなんか作ってやるってばよ!」
「…お前、料理出来んのか?」
「しっつれーなヤツだな!オレだって料理くらい出来るってばよ!」
「へぇ〜…そりゃ初耳だな。…で、何が得意なんだ?」
 シカマルに聞かれ、ドンッと自信たっぷりに胸を叩くナルト。
「インスタントラーメンなら麺の堅さも卵を入れるタイミングもバッチリだってばよ!」
―インスタントラーメンは料理じゃねぇだろ
 シカマルは心の中でツッコんだが、ナルトが嬉しそうに笑っているものだから、その言葉を呑み込んだ。そして微笑み、頷いた。
「あぁ、じゃあ今度はお前の得意な、そのインスタントラーメンってのを楽しみにしてるな」
「おう!あんまり旨くてビビんなよ♪」
 ニンマリと微笑むナルト。もうすっかり治ったようだ。
 シカマルは、さてと―と呟きながら立ち上がると、薬と水だけその場に残し、他の物を流しへと運び、洗った。
 そして洗い終わると服の裾で手を拭きながらナルトを振り返った。
「じゃ…俺そろそろ帰るけど、ちゃんと薬も飲めよ?」
「ああ、分かってるってばよ」
「じゃあな」
「あっ…シカマル」
 靴を履こうとしていた手を止め、振り返るシカマル。
「なんだ?」
「その…今日はありがとうってばよ」
「あぁ…でももうあんま風邪引くなよ?」
「なんで?」
「…メンドくせぇから」
 そのシカマルの言葉に、ナルトは、あははと笑った。
「それでこそいつものシカマルだ」
「うるせぇよ…じゃあな」
「うん!またな、シカマル」
 ナルトの笑顔に見送られながらシカマルは駆け足で家へと戻った。


「明日遅れると焼肉奢りだかんな…メンドくせぇけど急ぐか」
 走りながらシカマルは、秋の夜風をスウッと吸い込んだ。

―もう風邪引くなよ、ナルト
お前が風邪を引いたら…いつものお前でなかったら俺の調子が狂うし、
どうしたらいいのか分からねぇ自分の気持ちを考えるのがメンドくせぇからな。

 シカマルは再び秋の風を吸い込むと小さく微笑んだ。
 そして、月の光を背に浴びながら駆けるシカマルの足取りは先程までとは違い、軽かったのだった。







〜終〜







作:2004/09/16