夏のハーモニー



 

祭囃子が聞こえる…






 その祭囃子に引き寄せられるように、シカマルはふと身体を起こした。
「そっか…今日は祭りか…」
 だが、直ぐにまだゴロンと横になる。
―メンドクセェ
 すると其処へナルトが駆け足で近寄ってきた。
「お〜い、シカマル〜!」
「…ナルト?」
 再びシカマルは身体を起こす。ナルトは荒れた息を整えながら、ニッコリと微笑みシカマルの隣に腰を下ろした。
「やっぱ此処に居たってばよ」
 自分の居場所を当てられたシカマルは照れるようにカリカリと頭を掻くと、ポツリと聞いた。
「…どうした?」
「あのよ、あのよ!今日ってばお祭りなんだって!」
 満面の笑みで説明を始めるナルト。
「どうやらそうみたいだな…此処まで祭囃子が聞こえて来たからな」
「それでさ!シカマル、一緒にお祭り行かねぇ?」
「え〜…やだよ…メン」
「今日は『メンドクセェ…』は無しだってばよ!」
 自分の言葉を取られてしまったシカマルはふぅっと小さく息を吐いた。
「なぁ〜行こうってばよぉ〜、オレってばお祭り大好きなんだよぉ〜」
 それはよく知っている―シカマルは降参とばかりに両手を上げた。
「はいはい、分かったよ」
「うわぁ〜い!じゃあさ、早く行こうってばよ」
「もうかよ?」
「善は急げって言うじゃんか!ほらっ、早くぅ〜」
 ナルトに腕を引っ張られて起こされ、シカマルは渋々後を追った。
「そんなに急ぐなよ…メンドクセェ…」
 だが、メンドクセェとは言いつつもナルトと過ごすこの夏の日を楽しみにしている自分も居た。






 祭り会場は既に人で溢れていた。
 そして選り取り見取りの屋台にナルトの瞳も輝いている。
「うわぁ〜、焼きそばだ〜♪それにあっちにはイカ焼きもあるし、こっちには綿菓子もあるし♪リンゴ飴もかき氷もラムネもある!あ〜もうっ…どれにしようかマヂで悩むってばよぉ〜」
 キョロキョロしながら今にも飛び出していきそうなナルトの後を、ポケットに手を突っ込みながらシカマルが続く。
「…どれでもいいじゃんか」
「そんなのつまんないんだってばよ!もうっ、シカマルってばやる気あんのかよ?」
 プウッと頬を膨らませたナルトと、祭りにやる気は関係あるのか首を傾げるシカマル。
 そんな時、かき氷屋に目に付くように貼られていたお知らせにナルトが反応した。
「あ〜、シカマル!見てみろってばよ!あそこのかき氷屋、何でも好きなのを掛けてもいいんだって!」
「へぇ〜…」
「だったらオレね!ずぅえ〜んぶ掛けるってばよ♪」
「マヂかよ!?でも味が混ざると逆に変じゃねぇか?」
「そんなことないってばよ♪それにどれ掛けても値段は一緒なら、全部掛けなきゃ損なんだってばよ♪おっちゃん!ひとつね!」
 あいよ!という掛け声と共にナルトの前に真っ白なかき氷が登場する。
 ナルトは目をキラキラと輝かせたまま、先ほどの言葉通り、全てのシロップを掛けていく。
 初めこそはピンクだったのが変な緑になったり変な紫になったりと、どんどんと色が変わっていく。
 だが、当の本人のナルトは嬉しそうだ。シカマルはしばらくそんなナルトの様子を見ていた後、自分もかき氷をひとつ買った。
 そしてシカマルが掛け終わった頃、ようやくナルトも掛け終わった。そしてそのまま階段まで移動し腰掛けると、ナルトは嬉しそうにスプーンをかき氷に突っ込んだ。
「それじゃ、いっただきまあぁ〜す♪」
 掛け声と共に大きな一口目が口の中に入る。
「………」
「……どうだ?」
 溜まらずシカマルが聞いてみると、顔をしかめたままナルトが振り返る。
「…なんか…変な味がするってばよ」
「…だろうな」
「なんかイチゴだったりメロンだったりレモンだったり青いのだったり…」
 ナルトの言う所の青いのとは、ブルーハワイのことである―。
「なんか兎に角めちゃめちゃ変な味で、すっげぇー不味いってばよ…」
「だから全部掛けるからだよ…」
「でも全部試さなきゃ勿体ないと思ったんだってばよ…」
 肩をガックリと下げながら隣を見ると、シカマルの手には黄色掛かった綺麗なかき氷があった。
「…シカマル、それなに?」
「これか?これはレモンだけど?」
「いいなぁ…旨そう…なあ一口欲しいってばよ」
「え〜っ…マヂかよ」
「いいじゃんか、くれってばよぉ〜」
 笑顔であ〜んと口を開けるナルト。結局はナルトに逆らえないシカマルは、大きく広げたナルトの口の中に放り混んだ。
「ほらよ」
「うめ〜!超旨いってばよ♪」
「んじゃ…半分つにすっか?」
「いいのか?やっぱシカマルってば良いヤツだよな♪」
 満面の笑みで見つめられ、シカマルは心の中に温かい何かが生まれるのを感じた。
 今は未だ正体不明の何かが―。






 そして、シカマルとナルトがかき氷を食べ終え腰を上げると同時に、浴衣を着たサクラといのとバッタリと出逢った。
「あれ?シカマルとナルトじゃない?」
「サクラちゃん!」
「いの…」
「うわぁ〜…サクラちゃん浴衣姿、超可愛いってばよ♪」
 いつもと違う大人っぽいサクラの姿に、ナルトはニコニコ顔だ。
「ありがと、ナルト。それよりどうしたの?アンタ達2人だけで来てるの?」
 2人の周りをキョロキョロ見渡しながらサクラが問う。
「2人で来ちゃ悪りぃかよ」
 ぶっきらぼうに答えるシカマル。
「別に悪くないけど…」
「ねぇ?」
 何やら意味ありげに含み笑いをしている女性軍。そこでシカマルは慌てて違う話題を切り出した。
「それよりお前らも2人で来たのか?」
「ん〜、ホントはサスケくんを誘ったんだけど…」
「断られちゃったから2人で来たのよね…せっかく浴衣着たことだし、このまま帰るのも勿体ないしね」
「じゃあさ、じゃあさ!一緒にまわらない?」
「えっ!?」
 ナルトの言葉にシカマルは思わず振り返る。
「ん〜…別に良いけど…」
 サクラといのは合わせたようにチラリとシカマルを見た。
「やっぱ止めとくわ…ねぇ、いの」
「そうね…邪魔しちゃ悪いし…」
「邪魔?」
 いのの言葉に小首を傾げるナルト。
「じゃあ私たち行くわね!またね」
「うん!残念だけどまたな!」
 ナルトに手を振りシカマルの横を通り過ぎようとした時、サクラといのは小声で囁いた。
「シカマル…アンタ、顔…怖いわよ」
「えっ!?」
「ホント…気を付けなさいよ…」
 過ぎ去り際の2人の言葉で、慌てて顔を押さえるシカマル。
「なになに?今なんて言ったんだってばよ?」
「さあな…さあ、俺たちも行こうぜ」
 シカマルはカリカリと頭を掻くと踵を返した。
「あ〜、ちょっとシカマルってばよぉ〜」
 ナルトも慌ててシカマルの後を追った。






 その後は2人ともお祭りを目一杯楽しんでいた。
 初めはなんやかや言っていたシカマルも結構祭り気分を味わっていた。そしてそろそろ帰り支度を始めている人がいる中、シカマルが歩みを止めた。
「俺らもそろそろ帰るか?」
「うん…」
「じゃ、帰ろうぜ」
 だが、踵を返そうとしたシカマルをナルトは慌てて止めた。
「なんかまだ欲しいもんあるのか?」
「あっ…うん…欲しいものっていうかやりたいっていうか…」
「………なんだ?」
「実はオレってば金魚掬いって一度もやったことなかったんだ…だから一度やってみたいかな…なんて」
「…じゃあ行ってみるか?」
「えっ!?いいのか」
「せっかく来たしな…やって行こうぜ」






 ナルト、人生初の金魚掬い。だが、ナルトは上手く掬えない。
「あれ〜…また破れちまったってばよ…」
「お前、扱いが乱暴なんだよ…あと、変な所に力入れすぎ」
「違うよ!紙が弱いんだってばよ」
「はいはい」
「そう言うならシカマルがやってみろってばよ」
「いいけど?…んじゃそれ貸せよ」
「えっ…でもこれもう破れてるけど?」
「手元の紙の部分さえ残ってりゃ掬えるって…」
 え〜、無理だってばよ〜と言っているナルトの横で、シカマルは鮮やかな手付きであっという間に2匹救った。
「すげ…すげぇってばよ!やっぱシカマルってすっげー器用だよな!」
 褒められて照れたシカマルはポリポリと頭を掻くと、2匹でいいだろ?と聞き、掬った金魚を袋に入れて貰った。
 そして袋に入った金魚をそのままナルトに渡す。
「オレに…?」
「あぁ…この前貰った…ほら、その…お守りのお返しだ」
「マヂで?いやったぁ〜!」
「あっ…」
「えっ!?なんか言った?」
―大事にしろよ。
 その言葉が言えずに飲み込んだシカマルは代わりの言葉を口にした。思っていることとは反対の…。
「いや……腹減っても食うなよ?」
「くっ…食わねぇってばよ!なんだよ、それ!」
 むーっと口を尖らせるナルト。だが、直ぐに笑顔になる。
「でもありがと、シカマル」
「あぁ」
「オレ、この金魚をすっげー大事にするってばよ♪」
「あっ…あぁ」
 ナルトの笑顔と言葉で、思わず心臓の鼓動が高まるのを感じたシカマル。
 それが何なのか分からないまま、シカマルもナルトに笑みを向けた。
 すると、そんなシカマルの背後で、大きな花火が夜空に満開になった。
「うわぁ〜…」
 空を見上げるナルトにつられるようにシカマルも振り返る。


ヒュ〜…ドンドン…


 次々と夜空が明るく光ってはパッと消えていく。
「そういや今年から、祭りの最後には花火を打ち上げるらしいって言ってたっけ」
 シカマルが小さく呟くと、ナルトは夜空からシカマルへと視線を移した。
「じゃあさ、今からいつもん所行って見ようってばよ!」
「今から?」
「うん!あそこからならすっげぇー綺麗に見えると思うんだってばよ♪ほらっ、早くしねぇと花火が終わっちまう」
 そして来る時と同じようにシカマルの腕をグイッと引っ張った。
「早く行こうってばよ♪」
「…あぁ、んじゃ行くか!」



 シカマルとナルトは、打ち上げられる花火と比例するように、いつも2人で過ごす場所へと駆けて行った。
 柔らかな風が吹くあの丘へと―






〜終〜




作:2004/08/13