シカマルが中忍になった―
オレはお祝いに何かあげたかった。
でも―何も思いつかなかった―
「シカマルの欲しそうなもの?」
「うん!サクラちゃん、なんかいいものない?オレ、この前からず〜っと考えてるんだけど、な〜んも思いつかないんだってば…」
「難しいわね〜…元々シカマルって何考えてるか分からない所あるしね…本人に直接聞いてみれば?」
「それじゃダメなんだってば!オレはシカマルをうんとビックリさせたいんだってばよぉ〜!」
ナルトが大きさを表現するように両手で大きく円を描くと、はいはい―と言うようにサクラはヒラヒラと手を振った。
「じゃあちょっと待ってね―いのっ!」
サクラは視界に入ってきた女性に声を掛けた。恐らくシカマルの事に詳しいであろう人物の内の1人―。
「なに?」
「あのさぁ、シカマルって何をあげたら喜ぶと思う?」
「はぁ?なにそれ?」
「ナルトが知りたいんだって。いのは思いつかない?」
「ん〜…アイツって将棋と昼寝以外に興味なさそうだしね…」
「そうなのよねぇ〜…でもそう言えば…」
口元に指を当てながらサクラの視線がナルトへと移る。
「なに?サクラちゃん」
「どうしてナルトはシカマルにあげるの?誕生日はまだでしょ?」
「えっ…だって…それは…」
急に振られ、もごもごと口ごもるナルト。
「ほらっ…この前シカマルが中忍になったから…そのお祝い…だってばよ」
「え〜…でもお祝いだったらこの前みんなでやったじゃない」
「それはそうなんだけどぉ…」
サクラに聞かれ、何故個人的にシカマルを祝ってあげたいのかが自分でも不思議だ。
でも祝ってあげたかった―シカマルに喜んで貰いたかった―
それがどうしてなのだろう?
頭から煙が出そうなほど考えているナルトの肩を、ポンッといのが叩く。
「ほらっ、シカマルのことに詳しいヤツがもう一人居るわよ」
言われ、視線を向けるとその先にはチョウジが居た。
「シカマルに何をあげたら喜ぶか?」
「うん!」
「ん〜…難しいなぁ〜…」
チョウジはポテトチップを食べる手を止め、考えるように空中へと視線を向ける。
「みんなにも聞いたんだってばよ…でもシカマルは将棋と昼寝以外に興味がないから分からないって…」
ナルトは傍にあった木の枝でガリガリと地面に木ノ葉マークを書いている。
「僕もよく分からないけど…でも…」
「でも?」
ナルトの手がピタリと止まり、チョウジの顔を見る。
「気持ちが込もっていれば、例え何でもシカマルは喜ぶと思うよ」
「気持ち?」
「うん!」
そう言ってチョウジはニッコリと微笑んだ。
「そっか…気持ちか…」
呟くそうに繰り返すと、ナルトは満面の笑みで微笑んだ。
「ありがとう、チョウジ!お前に相談して良かったんだってばよ♪」
シカマルとの待ち合わせ場所―
とっておきの場所と言って教えて貰った、柔らかな風が吹く丘―
シカマルとナルトしか知らない秘密の場所―
その場所でシカマルを待っていたナルトは、ポケットに手を突っ込みながら歩いてくる待ち人に大きく手を振った。
「シカマル〜、こっちだってばよぉ」
「おぉ…でもどうしたんだよ、こんな所まで…なんか用か?」
「うん…用って言うか…」
口ごもりながらナルトはその場に座り込む。そしてシカマルはナルトの隣にしゃがみ込むと、そのまま仰向けで横たわる。
「ん〜…やっぱ此処はいいな…風がサイコーだ」
「あのさぁ、シカマル」
「ん?」
呼ばれて、枕代わりにしている腕ごとナルトの方を向くシカマル。
「やっぱシカマルってすげぇよな…」
いきなりそんなことを言われたものだから、シカマルは思わず起きあがった。
「は?なんだよ、それ?」
「だってさ、今回の試験で中忍になったのってシカマルだけじゃん?それってマヂで凄いんだってば」
えへへと笑いながら満面の笑みでシカマルを見つめるナルト。
褒められて照れたのか、それとも笑顔で見つめられて照れたのか、シカマルは赤くなりながらガリガリと頭を掻いた。
「別に凄くもなんともねぇよ…ってゆーかお前の方がスゲェし強えぇと思うぜ」
「オレが?」
ん〜と伸びをしてから、きょとんとしたナルトの顔を覗き込む。そして続ける。
「俺は適当に忍者やってんけど、お前にはちゃんとした目標があるじゃねぇか」
「それって…火影のこと?」
あぁ…と言うように頷くシカマル。
「他のヤツは『お前になれるワケねぇ』とかバカにしたりしてるけど、それでも『絶対火影になる!』って言い切るお前はスゲェと思うし、強えぇとも思うぜ」
いつだってそう―どんなことがあっても何があっても前だけを見つめている強さ。
それがナルトの本当の強さだと思う。
「それに、お前逢う度に強くなってるしな」
シカマルが小さく微笑むと、ナルトはほんの少し口を尖らせた。
「なんかシカマルに喜んで貰おうと思ったのに、オレの方が嬉しくなっちゃったんだってば」
「俺が喜ぶ?」
うん―と頷きながら、ナルトはポケットから包み紙を取りだした。
「これ中忍祝い…『おめでとう』って、まだちゃんと言えてなかったから」
言いながらナルトはシカマルの手に包みを押し付けた。
「これ…お前が?」
手にした包みを見つめてからナルトへと視線を移す。
「うん…これでもすっげぇ悩んだんだってばよ!」
「開けてもいいか?」
「…うん」
ガサガサと音をさせながらシカマルが器用に包みを開く。
そしてそんな様子をじっと見つめるナルト。そして出て来たものは―
「お守り…か?」
「うん!ほらっ、シカマルさ、中忍になったら今までよりも任務も増えると思うし…危ないヤツとかも増えるじゃんか?だから―その」
ごにょごにょと言葉尻を濁すナルト。
「きっとそのお守りがシカマルを守ってくれるんだってばよ」
無言で手の中のお守りを見つめ続けているシカマルをチラと見ながら、ナルトは続けた。
「チョウジにも聞いたんだけど、気持ちが込もっていれば喜ぶって言われて…それでオレはシカマルに無事でいて欲しいって思うのがオレの気持ちで…」
何を言っているのかが自分でもよく分からない。
だがシカマルが何も言ってくれない分、何か言い続けていないと不安になってしまう気がした。
けれどももう言うことが無くなってしまい、ナルトは視線を地面へと移した。
シカマルはしばしお守りを見つめてからポツリと口を開いた。
「これってお前の手作り?」
「う、うん…やっぱ下手くそだもんな…要らなかったら返してもいいんだってばよ」
無理に笑顔を作りながらシカマルからお守りを取ろうとしたとき、シカマルは手の中のお守りをギュッと握り締めた。
「いや、そんなことねぇ…そのなんてぇか…ビックリしただけで…ワリィ」
だから言葉が出てこなかったらしい。
「シカマル?」
「俺さ、こんなの貰ったのって初めてなんだよ。それに忍者なんだから危険な任務も当たり前って思ったし…だからこう言うのを貰って無事でいて欲しいって言われると…」
「嬉しい?」
「あぁ、嬉しいよ…サンキュー、ナルト」
シカマルの言葉に満面の笑みのナルト。
「じゃあビックリした?」
「えっ?あぁ、ビックリしたけど?」
それがどうしたんだ?という表情のシカマルにナルトは満面の笑みで喜んだ。
「やったぁ〜!じゃあ大成功だってばよぉ〜♪」
大喜びのナルトを横目で見つめると、シカマルは小さく微笑んだ。
―気持ち…受け取ったよ
それからそっと目を伏せ、ナルトの気持ちをギュッと握り締めると胸に当てた。
そしてナルトはなんとなくだが、サクラからの質問の意味が心の中で分かったような気がしたのだった。
シカマル―中忍合格おめでとうなんだってばよ
〜The End〜
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