愛の大きさ





大晦日は年越しそばを食べた。
コタツに入り、蜜柑を食べながら紅白も見た。そしてTVの時報が午前0時を知らせた。
2人で顔を見合わせて、笑顔で新年の挨拶も交わした。
除夜の鐘の音も一緒に聞いた。元旦には初詣にも行った。おみくじも引いた。
時期外れで安くなったおせち料理も買い、お雑煮も食べた。
ある程度のお正月気分は味わった蛮と銀次だった。

 

 

その日、銀次はいつもより早く目が覚めた。理由は簡単…寒かったからだ。
リビングにある拾ってきたストーブは、最初電源を付けてもスイッチは入らない。
銀次が電流を適量流し込むと、動くというシロモノだった。やはり拾いモノではダメだと言うことである。
 「新しいのが欲しいけど…やっぱもう少しお金が貯まらないと無理だよね…」
銀次は小さく呟くと、蛮が起きてくる前にリビングを暖めて置いてあげようと、隣で寝ている蛮を起こさないようにそっと起きあがり、
毛布を掛け直してあげると、自分は足元に転がっている毛布にくるまりながらリビングに行き、ストーブのスイッチを入れた。
やはり最初は動かなかった。そこで銀次は少し電気を流し込んでみた。
するとストーブは一瞬、横に揺れるとウィ〜ンという音と共に暖かい風が吹き出してきた。
 「暖かくなるまで、結構時間がかかるんだよね…」
銀次はそう呟くと台所に歩み寄り、ヤカンに火をかけた。そして沸かしている間、外を見ようとカーテンを開けてみた。すると―。




 「わあぁっvv」
外は一面の雪景色だった。…というより、今もまだ空からは雪が降り続いていた。
 「今日は雪がいっぱい積もるのかな♪」
根っからの雪大好きッ子の銀次にとっては、サイコーの日だった。
 「あとで蛮ちゃんとお出かけしよっと♪…でも嫌がるかな?」
しばらく窓を見つめ嬉しそうにそう呟いていたら、ヤカンからピーと言う音がした。お湯が沸いた証拠である。
そして銀次は、蛮が起きたら飲んで貰おうとコーヒーを煎れ始めた時だった。






 「う〜…さみぃ〜…ずいぶん早ぇな。銀次」
先ほど銀次が掛けてあげた毛布にくるまりながら蛮がリビングにやってきた。
 「あっ!蛮ちゃん、おはよv」
エプロン姿の銀次が、笑顔で台所から声をかけた。
 「なんか新婚サンみてえだな…」
蛮がボソッと呟くと、寝起きの一服とばかりに煙草に火を付けた。
 「えっ…何か言った?」
 「イヤ、別に…それより何やってんだ?」
滅多に台所に立たない銀次が自ら立っている。蛮が不思議がるのも当然だ。
銀次はそんな蛮を見ると微笑みながら、煎れ立てのコーヒーを持ってきた。
 「はい、蛮ちゃんvインスタントじゃないんだよv」
 「へぇ…お前が煎れたのか。そういやさっきからいい匂いしてたっけ…」
蛮が銀次とお揃いのマグカップを持ち上げ、そっとコーヒーの香りを嗅いだ。
 「うん…香りは合格だな」
そして今度はそっと一口、口に含んだ。
 「うん…味も合格だ」
蛮は優しくそう呟くと銀次を見つめた。
 「サンキューな…銀次。これ、煎れるために波児に習ってたんだろ?」
 「えっ!?蛮ちゃん知ってたの…?」
 「当たり前だろ。お前のコトならなんでも分かるんだよ」
そう言うと銀次に手招きをした。銀次はその手招きで蛮の横にちょこんと座った。
そして銀次も自分の煎れたコーヒーを一口飲んだ。
 「ホントだ!おいしいv」
銀次は嬉しそうに蛮の方を振り返った。すると―
 「どっ、どうしたの?蛮ちゃん?」
銀次が慌てた声で蛮に問う。だが、銀次がそう聞くのも当たり前である。蛮は銀次をぎゅっと強く抱きしめていたのだから―。
 「お前もすげぇいい匂い…」
 「えっ!?そう?やっぱりコーヒーの匂いが付いちゃったのかな?そう言えば波児さんもいつもコーヒーの匂いするよねぇv」
そう言いながらクンクンと自分の腕辺りを嗅いでみる。そして蛮を見つめるとニッコリと微笑んだ。
すると蛮は抱き締めていた腕を解き、少しの距離を置き見つめる格好になった―そして優しく微笑み返した。
 「違ぇよ」
 「ほえっ!?」
 「そういう意味じゃねぇ…」
 「んじゃ、どういう意味?」
銀次が不思議そうに小首を傾げると、蛮は手にしていたカップを机の上へと返した。そして―。
 「こういう意味だよ」
そう言うと蛮はひょいっと銀次を自分の膝の上に座らせた。
 「どっ、どうしたの?蛮ちゃん??」
コーヒーを持ちながら蛮の膝の上でアセアセしている銀次。
 「銀次…好きだよ」
 「蛮ちゃん…うん!俺も好きv」
銀次はテーブルの上に静かにコーヒーを置くと、蛮に抱きついた。
 「愛してる…銀次、俺はお前を愛してる…」
 「うん!オレも愛し…って、えええっっ!!!」
普段は『言ってvv』と言っても滅多に言わない蛮の口から出た愛の言葉。
 「どうしたの?蛮ちゃん、どっか具合悪いの???」
銀次は熱を測ろうと、そっと蛮の額に手を触れようとした。
しかし蛮はそんな銀次をぐいっと近づけると、触れるだけの口付けのプレゼントをした。
 「蛮ちゃん…?」
ますますいつもの蛮とは思えない行動に、銀次は再びアセアセしていた。
 「なんだよ…俺がお前に愛してるって言っちゃいけねぇのか?キスしちゃいけねぇのか?」
 「そ、そうじゃなくて、嬉しい!すっごく嬉しいよ?…でも…その…あの…」
 「ならいいじゃねぇか。減るもんじゃねんだし…。俺の今年のモットーはお前が欲しいと言ったらいくらでも愛の言葉をやる。
 キスして欲しいと言ったら何度でもしてやるよ。銀次…俺は心の底からお前を愛してる」
蛮は銀次を抱き締める手を緩めようとはしなかった。それどころかますます力強く抱き締めていた。
 「蛮ちゃん…」
銀次も蛮の抱擁の中の幸せに浸っていた。
 「蛮ちゃん、オレも蛮ちゃんが大好きv愛してるvv」
 「俺も愛してるよ。銀次…」
 「蛮ちゃんvvオレ嬉しいvすごく嬉しいよv」
 「俺も嬉しいよ。銀次…ずっと俺の傍に居ろよな…」
 「うん!蛮ちゃんもいつまでもオレの傍にいてねvv」
 「当たりめぇだ!お前がイヤっつっても絶対に離さねぇよ」
 「ふふっvオレがイヤだなんて言うわけ無いじゃんvオレの方が蛮ちゃんのコト好きだもんvv」
 「何言ってンだよ。俺の方がお前を愛してるよ」
 「え〜っ!?オレだよぉっ!」
 「俺だって!」
どうやら両方引き下がる気配は無いらしい。銀次は、ん〜…と考え、笑顔で蛮に提案した。
 「…じゃあ同じだけいっぱい愛してるってコトにする?」
 「仕方ねぇなあ…んじゃ、そう言うコトにすっか」
 「うわ〜いvオレと蛮ちゃん、おんなじだけ愛し合ってるんだねvv」
蛮の首に絡む銀次の腕に愛情を言う名の力が込められる。
 「蛮ちゃんv大好きvv」
 「銀次…愛してる」
2人はいつまでもソファの上で抱き合っていた。






―銀次は再び、目が覚めた。
 「ほえっ…?」
現実に戻ってくるまで多少の時間がかかった銀次は、ぼ〜っとしながらポリポリと頭を掻いた。隣には蛮が静かに眠っている。
 「ん〜…今のって…もしかして…夢?」
銀次は小首を傾げた。
 「さむっ!とりあえずストーブつけよっと…」
銀次は小さく呟くと、蛮が起きてくる前にリビングを暖めて置いてあげようと、隣で寝ている蛮を起こさないようにそっと起きあがり、
蛮に毛布を掛け直すと自分は足元に転がっている毛布にくるまりながらリビングに行き、ストーブのスイッチを入れた。
やはり最初は動かなかった。そこで銀次は少し電気を流し込んでみた。
ストーブは一瞬、横に揺れるとウィ〜ンという音と共に暖かい風が吹き出してきた。
 「暖かくなるまで、結構時間がかかるんだよね…」
銀次はそう呟くと台所に歩み寄り、ヤカンに火をかけた。そして沸かしている間、外を見ようとカーテンを開けてみた。すると―




 「わあぁっvv」
外は一面の雪景色だった。…というより、今もまだ空からは雪が降り続いていた。
 「今日は雪がいっぱい積もるのかな♪」
銀次は嬉しそうにそう呟いた後、あれ?と小首を傾げた。
 「これって夢と一緒…?ははっvまさかねvv」
不思議そうにそう呟くと、ヤカンからピーと言う音がした。そう、お湯が沸いた証拠である。
そして銀次は、蛮が起きたら飲んで貰おうとコーヒーを煎れ始めた時だった。






 「う〜…さみぃ〜…ずいぶん早ぇな。銀次」
先ほど銀次が掛けてあげた毛布にくるまりながら蛮がリビングにやってきた。
 「あっ!蛮ちゃん、おはよvv」
銀次が笑顔で台所から声を掛ける。
 「なんか新婚サンみてえだな…」
ボソッと呟くとソファに腰掛け、寝起きの一服とばかりに煙草に火を付けた。すると―。
 「ねぇねぇ、蛮ちゃんっ!オレね、今ね!」
銀次は蛮の隣りに勢いよく正座のような格好で腰掛けると、先程の夢の話をしようとした。
 「なんだよ。起きるなり…おっ!いい匂いだな?なんか煎れてンのか?」
 「ダメ!ダメなの!まだ気が付いちゃっ…!」
 「は?お前朝っぱらから何言ってンだ?」
そう言いながら蛮は銀次を押しのけるようにまたぐと、台所へと向かった。
だが、今日の銀次はくじけなかった。自分をまたぐ蛮の足に必死でへばりついて止めた。
 「だからダメだったらっ!蛮ちゃんは座って待っててくれなきゃ夢と一緒じゃないのっ!」
 「…ったくお前はホント、時々ワケ分かンねえコト言うな。…まあいいや。煎れてくれるんなら頼むゼ。銀次マスター♪」
 「うんvりょーかいv」
銀次は嬉しそうにコーヒーを持ってきた。
 「はい、蛮ちゃんvインスタントじゃないんだよv」
 「おぉ…サンキュ」
蛮が銀次とお揃いのマグカップを持ち上げ、そっとコーヒーの香りを嗅いだ。
 「うん…香りは合格だな」
そして今度はそっと一口、口に含む。
 「うん…味も…」
 「合格?」
ワクワクしながら問うと、蛮は態とらしく考え込んだ。
 「ん〜…微妙」
 「もうっ!蛮ちゃんっ!」
 「冗談だよ…合格だ」
蛮は優しくそう呟くと銀次を見つめた。銀次も嬉しそうな笑みで蛮を見つめる。
そして、あっ!と言うように再びまた切り出した。
 「ねぇねぇ、蛮ちゃんの今年のモットーは何?」
 「……は?」
突然の言葉に、思わず間の抜けた声で返してしまう蛮。
 「モットー?」
 「うん!モットー♪」
 「マヂで朝から何言ってんだよ…分かンねぇヤツ」
 「いいじゃん!ねぇねぇ、モットーは?」
嬉しそうに、うんうんと大きく頷く銀次。蛮の答えをワクワクしながら待っている様子だ。
そんな銀次を横目で見ながら蛮が呟いた。
 「俺の今年のモットーは…」
 「うんうん!」
 「ヤりたい時にヤる!」
 「……は?」
今度は銀次が間の抜けた声を出す。
 「だから俺のヤりたい時にお前とヤる!それが今年の俺のモットーだ!」
 「…何それ。それじゃモットーじゃなくていつもじゃん!」
 「ははっ!違いねぇや!」
ケラケラと笑う蛮。だが、銀次はプウッと頬を膨らます。
 「そんなんサイテー!そんなモットーだったらオレ、今年は蛮ちゃんとはしないからね!」
 「冗談だよ、冗談…そんくらいで膨れんなよ」
 「むーっ!だったらあとでちゃんとモットー考えてよね!」
 「はいはい、分かりましたよ♪」
言葉に変な調を付けながら、拗ねている銀次の額にちゅっとキスを落とす。そしてキスは唇へと移動する。
まるで反省の色がないその様子が逆に酌に障ってしまう―が、直ぐに許してしまうところが銀次である。
銀次が蛮の肩に寄り掛かると、蛮は自然に手を肩へと回す。
そしてコーヒーを口に含むと、そう言えば―と切り出した。
 「そういや銀次…お前今日なんか夢見たか?」
 「えっ…夢!?」
蛮の問い掛けで先程の夢を鮮明に思い出した銀次は、一気に頬を赤らめた。
 「…夢は一応見たけど…でもなんで?」
銀次が問うと、蛮が即答する。
 「なんだお前、知らねぇのか?今日見る夢は『初夢』つって、現実に起こる夢なんだよ」
 「ええっ!そ、そうなの!?」
銀次はもう一度先ほどの夢を思い返してみた。すると再びみるみる顔が赤くなっていく。
 「…ってか、なんだよその反応…なに顔赤くしてんだよ」
蛮に肘でつつかれながら、銀次はそっと瞳を瞑った。


いっぱい好きと言ってくれた蛮。

愛してると言ってくれた蛮。

抱きしめてくれた蛮。

そしてキスをしてくれた蛮。

銀次は夢の中の色々な蛮を思い返しながら笑顔で見つめた。

 「あのねv」










〜END〜




作:2002/01/03