「おい…銀次。朝だぞ?」 
       蛮が銀次を揺り動かすが、銀次は寝返りを打って反対側を向いてしまう。 
      「ん〜…蛮ちゃん、もうちょっとぉ〜」 
      「おい…銀次!」 
       少し怒り気味に声を掛けると、大抵銀次は「ふぁ〜い」と言いながら起きる。 
       銀次が目を擦りながら寝ぼけ眼で蛮を見つめると、蛮は銀次の額にちゅっと唇を落とす。 
      「はよ…起きたか?銀次」 
      「うん…おはよぉv蛮ちゃんvv」 
       銀次が顔を赤らめながら蛮がキスをしてくれた場所にそっと触れ、嬉しそうに微笑む。 
       
       
       これはいつもの風景。 
       いつもの朝の風景なのだが、蛮がおはようのキスをしてくれる度に銀次は顔を赤らめる。 
       そんな銀次が可愛くて蛮も優しく微笑んでから、今度は銀次の唇にも唇を落とそうとした。 
       その時いつもの如く、銀次の腹がグ〜ッと鳴った。 
       その音で恥ずかしそうにえへへと笑う銀次と、呆れたように銀次を見つめる蛮。 
       蛮はフッと笑うと銀次の金色の髪の毛を掻き混ぜた。 
      「…メシにすっか?」 
      「うんv」 
      『メシ』と言う響きで、銀次は満面の笑みで微笑んだ。 
       
       
       
       
       
       
      「銀次。今日は卵、何がいい?」 
      「んと…オムレツ!!」 
      「了解」 
       蛮が器用な手付きで片手で卵を割り、鮮やかな手付きで卵を溶き、フライパンに流し込む。 
       たったそれだけの事なのに、蛮の動きには無駄が無かった。 
       その動きに銀次は惚れ惚れとしたような顔で見つめる。 
      「蛮ちゃん、上手だねぇ〜vv」 
      「別に…こんくらい誰でも出来るって」 
       うるうるとした瞳の銀次に見つめられているのがテレたのか、蛮は銀次をピッと指差した。 
      「ほら、見てねぇでお前はしっかり自分の分担をしろ!」 
       蛮に言われ、はぁいと言いながら隣で珈琲を煎れ始める銀次。 
       二人で並んで台所に立つ姿は、まるで本物の新婚夫婦のようだ。 
       そして蛮が食事を作り、銀次が珈琲を煎れる。 
       これはいつの間にか出来ていた二人の役割分担だった― 
       
       
       
       
       
       
      「ほらよ」 
       銀次の前にオムレツを置く蛮。 
      「わ〜いvありがとぉvvすっごい美味しそぉ〜vv」 
       そのオムレツを見て手放しで喜ぶ銀次。 
       そして蛮の前にも煎れたての珈琲が置かれる。 
       お揃いのカップに入った珈琲からは、とても良い香りが香ってくる。 
       それは波児直伝で珈琲の煎れ方を教わった、銀次の唯一の得意分野である。 
      「サンキュ」 
      「どういたしまして♪」 
       微笑んで見詰め合う二人。 
      「んじゃ…」 
      「いっただきまぁすv」 
       銀次が嬉しそうに蛮の作ったオムレツとジャムの乗ったトーストにかぶりつく。 
       蛮は銀次のどんな時でも変わる事の無い食いっぷりにビックリするものの、 
       幸せそうに食べる銀次を見て思わず笑みがこぼれる。 
      「ほら、銀次…ジャム付いてンぞ?此処」 
       蛮が自分の口の横をトントンとする。 
      「ほんと?」 
       銀次は蛮に言われた通り口の横に付いているジャムを取ろうとするが、上手く取れなかった。 
      「ちげぇよ…逆だ」 
       そう言いながら蛮は銀次の唇の横に付いているジャムを取って、自分の口に運んだ。 
      「甘ぇ…」 
      「えへへv取ってくれてありがとう、蛮ちゃんvv」 
       蛮のさりげない優しさが銀次にとっては、とても嬉しいものだった。 
       銀次の満面の笑みがテレくさかった蛮は、ごまかすようにテレビのスイッチを入れた。 
       テレビからは、すっかり人気の無くなった海からの中継が映っていた。 
       その映像を見て、銀次がポツリと呟く。 
      「いいなぁ…オレも海、行きたかったなぁ…」 
      「なら、行けばよかったじゃねえか」 
      「違うの!蛮ちゃんと一緒に行きたかったの!なのに蛮ちゃん、今年は海にもお祭りにも連れてってくれなかったしさ」 
      「しょーがねえだろ?俺が人混みキライなの、お前も知ってンだろ?」 
      「でも行きたかったの!海とかお祭りとかに、蛮ちゃんと手を繋いで歩きたかった…」 
      「銀…次?」 
       銀次の言わんとしている事が分からない蛮は、半疑問系で銀次の名を呼んだ。 
       すると銀次は笑いながら答えた。 
      「それでさ、蛮ちゃんの事そこに居る、み〜んなに自慢したかったなv 
      『みんな〜見て見てぇ〜vこの人がオレの大好きな人なの〜vカッコイイでしょ〜vv』って♪」 
       そこまで言った後、えへへと顔を赤らめる銀次。 
      「…お前。朝っぱらからアホなコト言ってンじゃねぇよ」 
       テレを隠すため銀次の額にでこピンをしつつも、蛮は優しく微笑む。 
       銀次もその微笑に満面の笑みで答えた。 
       
       
       
       
       
       
       食事も終わりかけた頃、蛮が銀次に話しかけた。 
      「なあ、銀次」 
      「えっ?なに、蛮ちゃん」 
       銀次は珈琲を飲む手を止め、蛮の顔を見た。 
      「しょーがねぇから、連れてってやるよ…海」 
      「えっ…?」 
       思いもしなかった蛮の言葉に、銀次は瞳をまんまるくする。 
       ただでさえ大きい瞳なのに、びっくりするとますます大きくなる。 
       その姿がとても愛らしい。 
      「どうせ今日は特に用ねえし、今から行くか?」 
      「ホント?」 
      「あぁ…多分もう人気も少なくなってんだろ」 
      「行く!行く!海、行きたい♪わ〜い!すごく嬉しいvありがと〜v蛮ちゃんvv」 
       銀次が大喜びで蛮に抱き付く。 
      「そんな大喜びしなくても…」 
       そう言いながらも、こんなに喜んで貰えるなら、もっと早く連れてってやれば良かったなと思う蛮。 
       それから蛮は、抱き付いている銀次の髪に優しくキスを落とすと、そっと耳元で囁いた。 
      「そうと決まったら、すぐ出かけるから…さっさとメシ、食っちまおうぜ!」 
      「うんv」 
       
       
      
       
         
         
         
         
      蛮と銀次の一日は、蛮が銀次を起こす所から始まる。 
       
       
      これはいつもの風景。 
       
       
      でも今日はいつもと少し違って、とても素敵な休日になるような気がした銀次であった― 
       
       
       
       
       
       
       
      〜The End〜 
       
         |