クリスマスキャロルが流れている街中―
色取り彩りに彩られたツリーや街路樹たちの光のシャワー
そう、今日はクリスマスイヴ。
誰もが待ち続けていた恋人たちの幸せの瞬間。
オレはそんな街中を蛮ちゃんを腕を絡めながら歩いていた。
「寒くねぇか?銀次」
不意に蛮ちゃんが問いてくる。
「うん!全然寒くないよv蛮ちゃんと一緒だもんv」
オレが満面の笑みで微笑むと、蛮ちゃんも微笑んでくれ、オレの唇にちゅっと口付けを落とす。
「ばっ、蛮ちゃん?人が見て…」
「見ててもいいじゃねぇか…イヴなんだからよ」
そう言うと蛮ちゃんはオレのことをぎゅっと抱きしめて、今度は深く口付けを落とす。
「んんっ…蛮ちゃ…」
蛮ちゃんからのキスは溶ろけちゃいそうで、オレは力が抜けちゃう。
そうすると蛮ちゃんはオレを抱きしめる腕の力を強めてくれる。
だからオレも蛮ちゃんの背中に腕を回してオレたちは抱き合う。
これはいつもやってること。
ただ、いつもと違うのは、これが街中だってこと。
でも―今日はクリスマスイヴだから…いいよねv
キスしていた唇をそっと離すと、オレは蛮ちゃんの胸に顔を埋めた。
「蛮ちゃん…大好きv」
「あぁ…オレも愛してるよ。銀次」
普段はこんなこと滅多に言ってくれない蛮ちゃんも、今日ばかりは言ってくれる。
だって今日はクリスマスイヴだからv―
こんな素敵な日ならば、毎日がクリスマスでも良いなv
オレがこんな事を考えていたら、蛮ちゃんが不意に聞いてきた。
「銀次…どっか行きたいトコあっか?」
「行きたい所?ううん、特にないよv蛮ちゃんと一緒ならそれだけで充分v」
微笑んで答えると蛮ちゃんがオレの頭を撫でた。
「んじゃ…映画でも見に行くか」
「へっ…?映画???」
蛮ちゃんと映画を見るなんて滅多にないことだから、オレは驚いた。
何より蛮ちゃんから『映画』と言う言葉が出るなんて、思っても見なかったから―
イヴに映画を見に来る人は余り居ないのか、映画館は結構空いていた。
蛮ちゃんはオレに珈琲とポップコーンを買ってくれ、オレたちは席に着いた。
「ねぇねぇ?蛮ちゃん…」
映画が始まるまでの間、オレは蛮ちゃんに小声でそっと話しかけた。
「…何だよ」
蛮ちゃんも小声で返す。
「なんで映画見ようって言ったの?」
オレが聞くと蛮ちゃんもボソッと答える。
「…暗がりだから」
「えっ?それってどういう…」
オレが詳しく聞こうとしたら照明が暗くなり、映画が始まってしまった。
映画のストーリーは、街角で偶然出逢った二人の恋物語で、二人はどんどん惹かれ合っていくんだけど、実は男の人には恋人が居て、愛しているのに身を引こうとする女の人の悲しい恋のお話で…オレはヒロインの女の人の気持ちが痛い程に伝わった。
映画も半分ほど終わった頃、突然蛮ちゃんの手がオレの手を取った。
そして手を繋ぐ…と言うよりは絡める…と言った感じで―オレはすごくドキドキした。
だから蛮ちゃんは一体どんな顔をしているんだろうと思って、蛮ちゃんの方をちらっと見ると、蛮ちゃんは珈琲を飲みながら普通に映画を見ていた。
でもオレが見ていることに気が付くと…ニッと笑いオレに口付けた。
口付けながら絡めている手の力もどんどん強めていく。
「ふっ…んんっ…」
「声…出すなよ…」
蛮ちゃんは耳元でそう囁くと再びオレに深く口付けていく。
何度も角度を変えながら、深い深い蛮ちゃんのキスは続いていった。
暗がりだから―
そう言った蛮ちゃんの言葉の意味が、オレはこの時ようやく分かった。
オレはドキドキが止まらなくて、映画の存在をすっかり忘れてしまった。
その存在を思い出した頃は、既にラスト5分になっていた。
ぐすっ、ぐすっ…
「お前…いつまでも泣いてんなよ」
オレがいつまでも泣いているもんだから、蛮ちゃんが呆れたような声でオレの頭を叩く。
「だっ、だってっ…どうして愛し合っているのに…ぐすっ、別れなきゃいけないのっ」
「男と女には色々あんだよ…つーかあれは作りモンだろうが!」
「でもオレは…オレはイヤだな…オレは蛮ちゃんと別れたくないな」
オレが泣きながらそう訴えると、蛮ちゃんは思わず銜えていた煙草を落とす。
「なっ、なんでいきなりそうなるんだよ?」
「だってさ…もし蛮ちゃんに他に好きな人が出来ちゃったらって…思ったら…」
「だからって…」
蛮ちゃんは小さく溜息を吐くと、さっきよりももっと呆れた声で呟く。
でもオレは蛮ちゃんの顔を真っ直ぐに射抜いた。
「オレたちは…オレたちは別れたりなんかしないよね?」
オレの真剣な瞳に蛮ちゃんも諦めたように優しく微笑むと、オレの髪を優しくかき混ぜた。
「当たりめぇだろ…」
「蛮ちゃんv」
オレも蛮ちゃんの微笑みに満面の笑みで返した。
「俺は・…例えお前が別れたいっつっても、ぜってぇ別れたりなんかしねぇよ」
「ふふっvオレが蛮ちゃんにそんな事言うわけないじゃんv」
オレが笑って答えると、蛮ちゃんは急に真面目な顔をしてオレの頬にそっと触れた。
「銀次…俺はお前を愛してる。この髪もこの瞳もこの声もこの唇も…お前のバカみたいにお人好しなトコも…誰にでも優しいトコも…その笑顔も…お前の全て、全身全霊を込めて愛してるよ」
蛮ちゃんからの愛の言葉―
「蛮ちゃん…」
オレは嬉しくて蛮ちゃんの名前を呼ぶことしかできなかった。
そんなオレの姿を見ると、蛮ちゃんは優しく微笑みながら言葉を続けた。
「銀次…俺はお前に逢えて良かった…マヂで良かった…お前に出逢わせてくれた奇跡を、俺は神に感謝しねぇとな」
蛮ちゃんはそう言うとオレの頬にキスをしてくれた。
オレは蛮ちゃんの言葉が嬉しかった。本当に嬉しくて嬉しくて…涙が止まらなかった。
「バカだなぁ…こんな事くらいで泣くんじゃねぇよ」
蛮ちゃんが微笑みながらオレの頬に伝わる涙を拭う。
「だ、だって…嬉しくて…」
「バ〜カ…」
「でも…オレもっ…オレも蛮ちゃんに逢えて良かったvオレは蛮ちゃんがいつも傍にいてくれるから、いつでも笑顔でいられるし、いつでも幸せなんだvオレも蛮ちゃんが好きv蛮ちゃんの全部を愛してるv」
満面の笑みで蛮ちゃんを見つめると、蛮ちゃんはサンキュ…とお礼を言い、オレのことを優しく抱きしめてくれた。
「銀次…これからも愛しさも切なさも幸せも全て2人で分け合いながら、俺達ずっと一緒に生きていこうな」
「うんv蛮ちゃんv」
空からはいつしか粉雪が舞い落ちていた。
オレはしばらく見つめ合ってから、どちらからともなくそっと唇を重ね合わせた。
聖夜の夜に静かに舞い落ちる粉雪の中、オレたちはいつまでも抱き合い、キスをしていたのだった。
愛することは幸せで―
でも愛することは切なくて―
それでも人は人を愛し続けるものだから―
〜Fin〜
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