神の記述の戦いも終わり、骨休めをするため
蛮と銀次は、とある田舎にあるマリーアの隠れ家のひとつである家にやってきた。
「うわぁ…すごーい、広いねぇ〜蛮ちゃんv」
銀次が荷物を持ったまま、うっとりとした瞳でその家を見つめた。
「オレね、オレね、こうゆーのって初めてなんだv」
「こういうの?」
蛮が荷物を置くと、銀次はにっこりと微笑んだ。
「うん。こうゆーね、萱葺き屋根でぇ、縁側があってぇ、畳の部屋が続いててぇ、お庭が広くてぇ、
…んと、何て言うんだっけ、こうゆーの…?」
「日本家屋…か?」
「そうそう!こう言う所に蛮ちゃんと一緒に来たかったんだv」
「へぇ…そっか」
銀次はにっこりと笑うと、とててと縁側に向かって走り、腰を下ろした。
「真夏なのに、ここって結構涼しいんだね」
蛮もふっと微笑むと銀次の横に腰を下ろした。
「ああ…ここは良い風入るからな」
蝉の鳴き声。
時折吹く風が風鈴を鳴らす音。
夏を彩る様々な音。
蛮がその音を瞳を閉じて聞いていると、銀次が笑って言った。
「夏って感じだよねv」
まるで蛮の心を見透かすような銀次の言葉。
蛮は微笑むと銀次の金色の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜた。銀次はそんな蛮にそっと寄り添った。
見詰め合う2人。
そのまま互いの唇と唇が重なり合おうとしていた時だった。―突然、蛮の携帯が鳴った。
「わっ!!」
「びっくりした〜!」
「こんな時に誰だよ…」
蛮はブツブツ言いながら携帯の待受画面を見ると、そこには『マリーア』と表示されていた。
「あんの色ボケババア…ゼッテーわざとだよな…」
蛮はイライラしながら電話に出た。
「…何の用だ?」
『んまあ、相変わらず失礼なヤツねぇ♪せっかく銀ちゃんと一緒にゆっくり過ごしたいって言うから良い場所提供して
あげたっていうのに♪』
と言いつつ何処か嬉しそうなマリーア。
やっぱりマリーアの提供してくれた場所を借りたのは失敗だったか…と溜息をつくと、蛮はぶっきらぼうに切りだした。
「んで、何の用だよ?」
『あ、そうそう。庭の水蒔き、忘れないでねv』
「それは来る時、聞いたよ」
『念のためよvあと、寝る時お腹出して寝ちゃ駄目よv』
「んなガキじゃねぇよ」
『蛮じゃなくて銀ちゃんがよv』
「ああ…気を付けるよ」
『じゃ、思いっきり楽しんできてねvじゃぁ〜ねぇ♪』
絶対に面白がって邪魔してるんだと思いながら、蛮は電話を切った。
「マリーアさん、何だって?」
小首を傾げる銀次の額に、蛮はキスを贈った。
「水撒き、忘れるなってよ」
「んじゃ、今からしよv」
銀次はお返しとばかりに、蛮の額にキスを贈ってから立ち上がった。
「きゃはは〜v冷たぁいvv」
銀次がホースから出る水に、はしゃぎながら遊んでいる。
「こら、遊びじゃねぇんだよ」
そう言いながらも、まるで子犬が遊んでいるように動き回っている銀次を見つめながら蛮は幸せを感じていた。
「お前、それ以上濡れると風邪引くぞ?」
「大丈夫だよぉ〜v蛮ちゃんも…ほらぁv」
蛮からホースを奪い、蛮に水をかける銀次。
「おわっ…てめっ!やったなっ!!」
「あははvでも気持ち良いでしょv」
確かにこの炎天下の中、水を浴びるのは気持ち良い。
蛮と銀次はいつしか、ホースを奪い合いながらお互いに水を掛け合いこしていた。すると―
「あ…蛮ちゃん、見て見てv」
「虹…か」
蛮と銀次の傍からは、2人が作り出した虹が出ていた。
「きれーだねv」
「…だな」
2人は虹を見ながら見詰め合い微笑むと、そっと唇を重ねた。
そのキスは前髪から滴り落ちる水の味がした。
「ほらよ」
蛮は縁側に座っている銀次の頭の上にタオルをふぁさっと掛けた。
「ありがとv蛮ちゃんv」
銀次がタオルの隙間から顔を出し微笑む。そしてゴシゴシと髪の毛を掻き混ぜた。
「じゃ俺、飯作ってくるから、そこで待ってろ」
「あ、オレも手伝うよ♪」
「いいよ。お前が来ると味見でほとんど無くなっちまうからな」
蛮が微笑みながらからかうと、銀次はぷうっと頬を膨らませた。
だが、図星だった。
蛮が美味しそうな料理を目の前で次々と作っていくと、銀次は我慢できずに味見と称して次々と口へ運んでいく。
これはいつものアパートでも変らぬことだった。
だから銀次は、はぁいと返事をすると、縁側に座ったまま再びタオルで髪の毛を掻き混ぜ始めた。
台所から聞こえてくる蛮の小気味良い包丁の音。
蝉の鳴き声。
チリンチリンと涼しげな音をかもし出す風鈴の音。
いつしか銀次は、そんな夏の音を聞きながら眠ってしまっていた―
「おい銀次。メシ出来たから机の上拭いてく…」
蛮が台所から顔を出すと、縁側で気持ちよさそうに居眠りをしている銀次がいた。
蛮はやれやれと思いながら、銀次に近づいた。
「銀次…こんなトコで寝てっと風邪引くぞ?」
蛮が軽く肩を揺すると、銀次はう〜んと言いながら寝返りを打った。
「おい、銀次」
「う〜ん…もうちょっとぉ〜…むにゃ」
「早く起きねぇと…キスしちまうぞ?」
蛮はからかうように言うと、銀次は夢心地のまま答えた。
「ん…いぃよぉv」
返ってくるとは思わなかった銀次の答えに、蛮は驚いた。
だが、静かに顔を近づけると、蛮は優しく銀次の唇に自分の唇を重ねた。
すると今まで寝ていた銀次がぱっちりと瞳を開けて蛮を見つめた。
「おはよ、蛮ちゃんv」
「お、おぉ…メシ出来たから…机の上、拭いてくれるか?」
「うわ〜いv蛮ちゃんのご飯〜♪」
銀次は嬉しそうに机の上を拭き始めた。
ご飯も食べ終わり、後片付けも終わり、縁側に座っている銀次。
どうやら本当に縁側がお気に入りになったらしい。そこへ、小さな袋を持った蛮がやって来た。
「銀次。これ、やるか?」
そう言って差し出したのは―
「これって…花火?」
「…っても線香花火だけどな」
「どうしたの?これ」
「さっきビール買った時にくれた。余ったんだとよ」
「そうなんだ…わ〜い、やろうよぉv蛮ちゃん」
「派手なのじゃねえけど、いいか?」
「うん♪オレ、線香花火って大好きv」
銀次が大喜びで線香花火を抱きしめる。蛮はそんな銀次が可愛くて、頭を撫でた。
パチパチパチ。
小さな光と小さな音が二人を照らす。
線香花火は淡い光―
線香花火は儚い光―
けれども、素敵な光―
2人はいつしかその光を間にしながら見詰め合っていた。
しかし―
ポトリ・・・
線香花火は、あっという間に光を失ってしまった。
「あ…終わっちゃった」
「線香花火は、儚いトコがいいんだよな」
2人は微笑むと、再び新しい命に光を付けた。
パチパチパチ。
淡い光を再び放ちながら、線香花火は2人を照らしていた。
そうしていくつも新しい光を見ている内、いつのまにか線香花火は、残り2本になっていた。
「なぁ…銀次?」
「ん?なあに、蛮ちゃんv」
「勝負…しねぇか?」
「勝負?」
「どっちが長く線香花火の光を保てるか…どうだ?」
「面白そう…うん、やろう!!」
「負けた方は、勝った方の言う事を1つ聞く…ってのはどうだ?」
「よぉし!オレ負けないぞぉv」
「悪りいが、勝ちは俺のものだけどな」
「「いざ、勝負!!」」
2人は微笑むと、同時に線香花火に命を付けた。
パチパチパチ。
銀次は少しでも長持ちするようにと、揺らさないように神経を集中させて静かに持っていた。
蛮はさすがだ。
そんなことをしなくても、線香花火は微動だにしなかった。
しかしそこへ、2人にとって不運な風が吹いた。その風に乗って、2人の線香花火はポトリと同時に落ちてしまった。
「あ…」
思わず蛮も声をあげてしまう。
「あ〜……」
銀次に至っては、半泣きの声だ。
「あ〜あ、残念だなぁ……絶対オレが勝ったのになぁ」
「よく言うよ。勝ってたのは俺だ」
「え〜、絶対オレだよぉ!」
「俺だっ!!」
蛮と銀次はそれぞれ主張しながら、水の入ったバケツに燃え尽きた線香花火を入れた。
「じゃあさ、蛮ちゃんが勝ってたら何を言うつもりだったの?」
西瓜を頬張りながら銀次が蛮に問いた。
「お前こそ…何て言うつもりだったんだ?」
蛮は微笑みながら銀次の頬についた西瓜の種を取った。
「え〜…じゃあ…一緒に言う?」
「……いいぜ、別に」
「じゃあいくよ?……せぇのっ!!」
銀次の掛け声とともに、蛮と銀次のお互いの願いが口から出される。
「「キスをして欲しい」」
「「……えっ!?」」
ハモった願い事にお互いきょとんとしていたが、すぐに銀次がぷっと吹き出した。
「ぷっ…あははははvなぁんだ、オレと蛮ちゃんの願い事って一緒だったんだ♪」
「ははは…だな」
蛮も珍しく声をあげて笑う。
「じゃあ蛮ちゃんとオレ、両方勝ちって事で…」
「互いの望みを叶えますか♪」
蛮と銀次は見詰め、微笑み合うと、そっと口付けを交わした。
触れるだけの優しくて暖かいキス。
それでいてお互いの気持ちが流れ込んでくる
2人だけのキス。
本日最後のキスの味は、甘い甘い西瓜の味がした―
〜End〜
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