明日見る夢 Episode 5






天気は晴天の日曜日。
穏やかな日差し―ベランダから入ってくる風が観葉植物の葉を揺らす。
こんな爽やかな状況なのに、聖の機嫌はすこぶる悪かった。




 それはつい昨日のことだ。
 弓生が「今日は早く帰れる」と言って出勤したので、聖は弓生の好きなモノを沢山作って弓生の帰りを待っていた。
 だが、10時になっても11時になっても弓生は戻らず、ようやく日付が変わる少し前に弓生は戻って来た。しかも食事は外で済ませて来たと言う。そんなこと言われたら、食事もせずに待っていた聖の気は収まらない。真夜中だと言うのに聖の怒りメーターは針を振り切っている。

「お前は明日は朝からバイトだと言っていただろう…早く寝ろ」
 弓生がネクタイを緩めながら言うと、行く手を遮るように聖が両手を伸ばして立ちはだかる。
「こんな気分のまま寝れるわけないやろ!大体こんなに遅うなるなら、はよ言わんかい!」
「仕方ないだろう―急に歓迎会が入ったんだ」
「せやったら学校でも会うんやし、そん時に言うてくれればええやんか」
「…学校でどう言えと言うんだ?皆の前で『今日は帰りが遅くなるから先に食事をしていろ』とでも言えと言うのか?」
 弓生は自分の方がどう考えても悪いと言うことは分かっているのだが、疲れもあったし、いつまでも聖が怒っているものだから、つられて少し無気になってしまう。
「せやったら電話くらいしてくればええやろ?携帯っちゅう便利なもんがあるんやし…それにオレ、何遍も電話したんやで?なのにちぃとも繋がらんし」
「電源を切っていたからな…それよりもうこの話はいいか?明日も早いんだ、風呂に入って眠りたい」
 この言い合いが面倒臭いと言わんばかりのような溜息を吐きながら、聖をグイッと押し退け自室に入る弓生。
 聖はそれを見届けてから、両脇でグッと拳を握る。そして思い切り叫んだ。
「ユミちゃんの……ユミちゃんのドアホーーーー!!!」
 聖の叫び声に、町内にいる犬が一斉に遠吠えを始めた。そして真夜中の犬の合唱はしばらく続いていた。




―ということがあった翌朝。
 結局昨夜はメシ抜きだった聖の機嫌は未だ収まらない。
 実を言うと昨夜のように弓生の帰りが遅くなったり、連絡が付かなかったりすることは今までにも何度もあった。仕事だから仕方ないと思いつつ、その溜まりに溜まった不満がついにMAXになったらしい。まるで少しずつ溜めていったコップから一気に水が溢れ出すかのように、聖の怒りも心から一気に溢れ出したようだ。

「聖、珈琲…」
 弓生の言葉にも何も言わず、聖は横を向いたまま新しい珈琲を注ぐだけだ。少しもカップを見ていないのに何故零さず注げるのだろうという疑問点はひとまず置いておき、黙々と食事をしている聖を見て、弓生はふうっと溜息を吐いた。
「一体いつまで怒っているつもりなんだ」
「………」
「遅くなったくらいで何故そんなに怒る?」
「…ユミちゃん反省しとるか?」
「反省?」
「せや…オレがどれだけ心配した思うとんねん」
「心配?」
「当たり前やろ!早よ帰るゆうてたのに遅うなったら事故に遭ったんやないかて思うやろ?」
「………」
「連絡付かんかったら普通は心配するやろ?」
「それは済まなかった…だが予定が変わることくらいある」
「それは分かるけど…けど、電話くらい出来んほどそない忙しかったんか?」
「そう言うわけではないが、いつも周りに誰かしら居るんだ。そんな状況では電話など出来ん―。それに一応俺は職場では独身で一人暮らしということになっているから変に感づかれては困るしな」
「………」
「俺はお前との平穏な暮らしを邪魔されたくない」
 その言葉に聖は珈琲を飲む手を止め、弓生を見つめる。
 弓生の気持ちも分からないわけではない。弓生が自分のことを考えてくれていることも分かる。それにいつまでも怒っているのは自分の性に合わない。そこで聖は、うん―と頷くと、弓生に笑顔を見せた。
「分かった…もう許してやるわ」
「だが、これからも約束を破るときがあるかもしれない―その時は済まない」
 その言葉に聖はプッと吹き出す。
「破る前から謝られたらオレはなんて言えばええんや」
「それもそうだな」
 弓生はちらりと腕時計を見やると立ち上がり背広を手にした。
「じゃあ行って来る」
「うん。気ぃ付けてな?あっ、せや!ユミちゃん」
「なんだ?」
「今日な、バイト終わったあとクラスのヤツらと親睦会するんや」
「親睦会?2年と同じクラスなのにか?」
「楽しいことなんやからええやん…せやから今日は遅くなるから」
「…分かった。だがハメは外すなよ?あとお前は未成年なんだから酒は呑むなよ?」
「分かっとる、それに今日はファミレスやから心配しな。ほな、気ぃ付けてな?」
 笑顔で手を振る聖に微笑んで見せてから弓生は出ていった。




「えっと…確か待ち合わせは5時半に駅前広場やったな」
 5時にバイトを終わらせ、聖は駅前に歩き出す。―と、背中をポンッと叩かれる。
「よっ!聖」
「おう、三吾。お前もバイト帰りか?」
「ああ。生活掛かってんからな」
「そか、お互い難儀しとるなー!その代わり今日は思い切り楽しもうな」
 満面の笑みの聖。すると待ち合わせ場所には既にクラスのメンバーが数人集まっていた。
「あっ!もう来とる…なんや、女子も居るんか。まあ親睦会なら居てもおかしないか」
 聖は言いながらキョロキョロする。
「…にしては知らん女子も居るな」
 呟く聖に、後ろからひょいと阿部と川上が顔を覗かせる。
「えっ、言わなかったっけ?」
「なにを?」
「そういやお前らには言ってなかったかも…」
「せやからなにをや?」
「親睦会ってのは表向きで、本当は他のクラスの女子との合コンだよ」
 聖の時間が一瞬止まる―。そして一拍空いてから―
「合コンーーー!!!???」
「声がでかいよ」
「お前なんで早よ言わんのや!」
「だって言ったらお前来ないじゃんか!」
「知っとったら来るわけないやろ!それに他のクラスの女子なんてオレ、よく知らんし」
「あっ、それなら平気。俺等のクラスの女子もいるから」
「そう言う問題やのうて」
「変なヤツだなー?普通合コンって言ったら男なら喜ぶぜ?お前お祭り騒ぎ好きだろ?」
 確かにそうなのだが、変なところで律儀な聖は恋人が居たら来てはいけないと思い、誘われても断っていたのだ。
―(あー、どないしよ?ユミちゃんにばれたら怒られる)
「なんだよ?聖。お前実は女に興味ないとか?」
「そないなことはないけど…」
「だったらいいじゃねぇか!それともなにか?付き合ってるヤツが居てバレたらそいつに怒られるとか?」
 その言葉に聖は顔を上げる。
―(半分合っているような間違っているような)
「付き合うてるヤツは…」
 言いかけたその時、聖は弓生の言葉を思い出す。卒業までは内緒の付き合いだと言っていた弓生の言葉を―
「付き合うてるヤツは居らんけど…けど卒業したら居るかもしれんやろ?」
「…なにわけ分かんねーこと。ほら!メンバー集まったし行くぜ!」
 煮え切らない聖を押しながらメンバーは移動した。




 合コンも始まり自己紹介も終わった。
 聖はフウッと溜息を吐き椅子に凭れた。すると同じように隣で溜息を吐いているのは三吾だった。
「なんや、三吾もこう言うの嫌いやったっけ?」
「ああ…どっちかってと苦手」
「オレもこの女子のノリってのにどうも着いていけんわ」
 しみじみと語っている聖たちに、背後から声が掛かる。
「お前らなにオヤジ化してんだよ?」
「やかましい。言うとくけどお前が悪いんやからな」
 聖が食ってかかると、川上が落ち着けというようにポンッと肩を叩いた。
「まあまあいいじゃねえか!それに言っとくけどお前人気あんだよ、女子から」
「へっ?」
「お前、鈍すぎ!知らなかったのか?」
「うん。そんなん知らんかったわ」
 ごく素直に聖は頷く。すると阿部も話に加わってくる。
「合コンするたびに誘ってくれって女子にいっつも言われてたのに、お前来ないから非難ゴーゴーだったんだぜ」
「せやったんか…せやから親睦会って言うて騙したんか?」
「騙したって、人聞きの悪いこと言うなよ」
「冗談やて…まあええわ。来てしもたんやし、楽しませて貰うわ」
「そうこなくちゃ!」




 合コンもだいぶ時間が過ぎた頃、佐穂子は聖の姿が見えないことに気が付いた。
「ねぇ、三吾…聖は?」
「便所」
「ふぅ〜ん」
 すると、傍に居た女子がキョロキョロとし始めた。
「そう言えばマナも居なくない?」
「電話してくるって言って戸倉くんの後を追ったわよ」
「えっ!?なんか妖しくない?」
「そう言えばマナって聖のこと良いって言ってたわよね」
「嘘っ!?」
 その言葉に思わずガタリと音を立てて立ち上がる佐穂子。
 それと同時に周りの男子がええーっと言う声を上げる。
「あの学園のマドンナが?聖を?」
「マドンナなんてよく言うわよね〜!しょっちゅう男を取っかえ引っかえしてんだから」
「そうそう。そして飽きたらポイって感じ?」
「お前ら俺等のマドンナのイメージ崩すこと言うなよな」
「バッカじゃない!なにがマドンナよ?」
「ねー!」
 幾人かの女子が納得いかないというように文句を言う。だが、佐穂子だけはそれどころじゃないといった様子だった。
「ちょっと待って?…ってことは次の獲物は聖!?」
「獲物ってそんな、狩人じゃねえんだから」
「うるさいわねー!あーでもどうしよう、三吾。あの子すっごい美人じゃない?男なら誰でも思わずグラッと来ちゃわない?アンタなら来るでしょ、ねぇ?」
「知らねぇよ!それにこれは聖の問題だろ?俺等が止める筋合いはねぇだろ」
「アンタって友達甲斐がないわねー!私は心配なの…聖が」
「佐穂子、取り敢えず座れ」
 注目を浴びてしまった佐穂子は、三吾の言うとおり静かに椅子に腰を下ろす。そして呟く。
「ねぇ、どうしよう…三吾」
「心配いらねぇよ。大丈夫だよ、聖は」
 佐穂子に言い聞かせると言うより、自分に言い聞かせるように三吾は頷いた。
「うん、アイツなら大丈夫」




 一方、そんな話題になっているとは知らない聖は、トイレの傍にあるスペースで電話をしていた。が、相手が出ないのか、何も言わず電話を切った。
「やっぱ居らんか…せめて留守電にしとけっちゅうねん!」
 そこへマドンナ、マナがやって来る。
「あれ?トイレじゃなくて電話だったの?」
「えっ?ああそうやけど」
「ふぅん…じゃあ電話はもう終わったの?」
「うん。したけど居らんかった」
 聖は笑顔で受け答えをする。するとマナは男を虜にするという可愛らしい笑みを浮かべながら聖の隣へと並ぶ。
「へぇ…その電話の相手ってもしかして彼女とか?それだったらなんか妬いちゃうな」
「いや?彼女…ちゃうけど」
―(どっちかってとオレの方が彼女やしな)
「そうなの?じゃあさっき周りの人から聞いたけど彼女居ないのってやっぱり本当?」
「えっ!?う、うん…まあ」
―(誰がいちいち言うたんや?お喋りなヤツやなぁ)
 聖は心の中で悪態を吐く。
「ねぇ、じゃあアタシと付き合わない?アタシ、前から聖のことが好きだったのよ」
「えっ!?アンタみたいなべっぴんさんがオレ…を?」
「やだ、別嬪さんだなんて…でも、そうよ!貴方のことが好きだったの。それに聖だってすっごくカッコ良いわよ?」
「それはおおきに…けどオレは」
「ねぇ、アタシたちお似合いだと思わない?」
 笑顔で迫られる聖。そしてマナは聖の胸にそっと手を振れる。そしてそのまま抱き付く。
「えっ?なに、どないしたん?具合悪いんか?」
「もう…分かってるくせに。でもそんな鈍い所も可愛くて好きよ」
 瞳を閉じ、そのままキスを求めるかのように背伸びをする。
 そして口唇まで数センチと言うとき、聖はグイッと離した。今まで拒まれたことのないマナは驚いて聖を見つめた。
「どうして…」
「かんにん…気持ちはホンマに嬉しいんやけど。…せやけどオレ、好きなヤツが居るんや」
「えっ!?でも付き合ってる人は居ないって」
「それでもそいつが好きなんや、大好きなんや!せやからアンタとは付き合うことは出来ん…ほんま、かんにん」
「嘘!?信じらんないっ!アタシを拒むなんてっ!」
 そこへ気になって居ても経っても居られなかった佐穂子と、無理矢理連れてこられた様子の三吾が到着した。
 振られた悔しさとプライドが傷付けられたのが悔しかったのか、マナは聖をキッと睨んだ。
「バカっ!!」
 そして踵を返すと立ちすくむ二人にぶつかるかのような勢いで走り去っていった。三吾と佐穂子はマナの姿が見えなくなってから聖に近付いた。
「どうした?なんかあったのか?」
「バカって言ってたけど、まさかアンタなんかしたんじゃないでしょうね?」
「するわけないやろ!アホ!」
「じゃあされたの?」
「されてもないわ!アホ!」
「じゃあ一体なんなのよ?」
「…誰にも言わんて約束出来るか?」
「するする!するから」
「絶対やで?」
 念を押してから聖はボソッと答えた。
「………付き合うてくれて言われた」
「えっ!?」
「そそそっ!それでどうしたのよ?」
「断ったわ…そしたらバカって言われた」
「…そういうことね」
 佐穂子はホッと胸を撫で下ろした。
「じゃあ戻りましょ」
 それから3人は席へと戻った。マナは聖が座るのを確認してからわざと聞こえるかの様な声で他の男と楽しそうにキャーキャーと話していた。
「アタシ、前から貴方のこと気になってたの」
 潤んだ瞳で見つめられ、その男はもうその気になっていた。
 その様子を見て聖はボソッと呟いた。
「女はよう分からん」




 家に帰るとソファでくつろぎ本を読んでいた弓生が顔だけ振り返った。
「お帰り、思ったよりも早かったな」
「ただいま…ユミちゃん」
 そしてそのまま隣に腰掛け、弓生に凭れ掛かる。
「どうした?」
「ううん、なんもないけど…やっぱユミちゃんやなー思うたら安心した」
「なにをわけの分からないことを」
 その時、聖の携帯が鳴る。今流行りのバンドの曲である。
「…電話だぞ」
「ん―。でももう少しこのままで居りたい」
「いいから出ろ。その曲が頭から離れなくなるだろう」
「分かったわ」
 もう、邪魔すんなやーと呟きながら聖は電話に出た。
「どないしたん?おう、今日はお疲れやったな」
 電話の相手はクラスメイトか―。弓生はそんなことを思いながら珈琲を口に運ぶ。
「えっ?んー、まあ確かに告られたけど…誰に聞いたんや、それ?」
 ボソボソと話している言葉に弓生の珈琲を飲む手が止まる。耳をそばだてて会話を聞いているらしい。
 それが分かったのか、ますます小声になっていく聖。
「えっ!?噂になっとる?えっ?なんで断ったって言われても…そりゃ美人やったとは思うけど…その…」
 しどろもどろになる聖。どうやら傍に居る弓生の存在が気になるらしい。
「もうええやろ?遅いし、切るな?ほなまた明日な」
 無理矢理会話を終わらせた聖は電話を切った。
「なんだ…今日は合コンだったのか?」
 視線を此方に向けることもなく本を読む手を止めず弓生は問いた。
 それだけで二人の間を流れる空気がかなり気まずい…。
「う、うん…そうみたいやった」
「誰かに告白されたのか?」
「う、うん…一応そうゆう感じかいな」
 だが顔を上げると慌てて手を横に振った。
「勿論断ったで?オレにはユミちゃんが居るからなー。せやけどオレなんかがええなんて、物好きなヤツも居るんやなー!」
 あははと笑って誤魔化す聖。だが、弓生は本から視線を上げようとしない。そこで聖は恐る恐る聞いた。
「ユミちゃん…怒っとるんか?」
「まさか、下らない。それにお前にだって付き合いくらいあるだろう」
「ならほんまに怒っとらんのか?」
「怒ってなどいないと言っているだろう」
「せやったらなんでこっち見てくれんのや?ほんまに怒っとらんのやったらオレの目ぇ見てゆうてくれや!」
 その言葉に弓生は呆れたように溜息を吐くと、読んでいた本を閉じて聖を見つめた。
「怒るも怒らないも俺には関係のないことだ。もし他のヤツと付き合いたいのなら付き合えばいい。俺の存在が邪魔なら俺を振ればいい。お前も本当は同じ年頃の相手の方がいいんじゃないのか?そうしたらこんなコソコソした付き合いをしなくてすむ」
「まさかユミちゃん…それ本気で言うてんのか?」
 聖は傷付いたかのような表情で弓生を見つめた。
「………」
「オレがどんだけユミちゃんのことが好きか知らんのか?オレはユミちゃん以外には有り得んと思ってたんに!そない思てたんはオレだけやったんか?」
「聖!」
 落ち着け、と言うように聖の腕を掴むが、聖は直ぐに振り払うと両脇でグッと拳を握った。そして―
「ユミちゃんの…ユミちゃんのドアホー!」
 思い切りそう叫ぶと部屋へと走り戻った。
 そして聖の叫び声に寄る連夜に渡る犬の合唱が、またもや始まったのだった。
―(少し言い過ぎたか)
「聖」
 後悔した弓生はそれから何度も聖の部屋をノックした。―が、そのドアが開かれることはなかった。






 そして翌朝―。
 弓生がリビングに入ると、既に聖が朝食の準備をしていた。
 昨日の今日のことだ。
―(一体どういう顔をされるのだろう…)
 弓生は困惑しながら聖に近付いた。
 すると弓生が声を掛けるよりも前に、聖が笑顔で振り返った。
「ユミちゃん、おはようさん」
「…ああ。おはよう」
「もうすぐメシ出来るから、はよ顔洗ってき?」
「ああ」
 昨夜は何事も無かったかのように、いつもと変わらぬ態度の聖。
 弓生は一端は洗面所へと向かったが、直ぐに戻ってきた。そして―。
「聖…夕べは済まなかった」
「ユミちゃん」
「情けないが、どうやらお前に嫉妬を妬いてしまったようだ」
「嫉妬?」
「あぁ。だがお前を傷付けてしまったことに変わりはない…済まなかった。昨日言ったことは全て嘘だ。俺もお前以外は有り得ない、そう思っている」
「…ユミちゃん」
 うん、と言うように聖は頷いた。そして嬉しそうに微笑む。
「もうええよ…今の言葉、ごっつぅ嬉しかった。それにオレの方こそかんにんや」
「何故だ?」
「オレ、ユミちゃんが居るのに合コンに行ってしもた」
「いや、お前は知らなかったのだろう?それにお前は頼まれたら断り切れんからな」
「けど、やっぱ行ったことには変わらんし…かんにんな?」
「もう構わん…じゃあ顔を洗ってくる」
「うん」
 そして朝食を囲みながら、再び弓生は話題を切り出した。
「そう言えばひとつ聞いておきたいのだが、お前に親睦会だと偽って合コンに誘ったのは誰だ?」
「えっ?なんでそないなこと…どうでもええやん」
「いいから言え!」
「あいつらの名誉のためや………絶対言えん」
「聖っ!」
 喰って掛かられそうな迫力のある声音に観念した聖は視線を逸らす―そしてボソッと答えた。
「…阿部と川上」
「アイツらか…」
 噛み締めるような呟きに、聖は視線を上げ必死で乞う。
「ユミちゃん!?まさかなにか二人にする気やないやろうな?」
「なにか、とは?」
「例えば…ごっつう難しいの当てるとか、居残り補習させるとか、あいつらにだけ宿題出す…とか?」
 聖なりの回答にフッと笑うだけの弓生。つまりそれは肯定を意味しているのか―?
「ほぅ…どれもなかなか良いアイデアだな」
「ユミちゃん、あかんて!教師が公私混同したらあかんのやろ?ユミちゃん!!」
 聖の必死の叫びが部屋に響く。
「じゃあ行って来る…遅刻するなよ?」
「ちょい待ち、無視すんなや!なあ、ユミちゃん?ユミちゃんってばぁ!」
 聖の必死の訴え虚しく、扉は閉ざされた。
 そして聖は、“自分が絡んだ時の弓生は怖い”と言うのを新たな教訓にしたのだった。





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同棲生活と言うよりも、聖の高校生活編。
ぶっちゃけ聖は人気があると思うのですよ。男子からだけではなく女子からもv
それでも弓生一筋の聖が好きvv
因みに“聖絡みの弓生”は怖いですよー?それは原作でも然りだけど(笑)
そして今回の不運は阿部くんと川上くん。彼らの運命は!?(笑)


2005/12/9