遠き祈り








 中央から命を狙われていて逃避行していた弓生と聖。
 だが、天狗に拉致られた成樹を奪還するため、敵になってしまったはずである三吾と、聖を追って家を捨てた佐穂子と手を組み無事に救出に成功した。
 そして追っ手を振り切るため一度は別行動を取ったが、また必ず会おうと約束した二人―。
 けれども聖は待機先のはずであるホテルには戻らず、自分たちのマンションに足が向いてしまっていた。


 その理由は、ただひとつである―


 マンションに迎えに来た高良の車で弓生が待っている神島家の別宅へ向かう道中、助手席に座っている聖は大事そうに紙袋を抱えていた。
 その紙袋とはクリスマスツリーの横にずっと置いてあった、聖から弓生へのクリスマスプレゼント―。
 後部座席には着替えやらなんやらと色々な荷物が場所を取っており、一緒に置いたら如何ですか?と言われたが、これだけは自分が持つんや!と頑固に言い張った。
 みんなとのパーティはとっくに終わっていたが、イヴに弓生と二人でパーティをして渡そうと思っていたプレゼント―。
 弓生を思い浮かべながら、一生懸命探して見つけて選んで―。
 直ぐに渡したかったけどイヴまで我慢しようと思って―。
 でも渡せなくて―。
 逃避行していた最中でも、ずっとずっと気になっていた―クリスマスプレゼント。

「戸倉さん?」

「ん?なんや?」

 不意に呼ばれ、視線を紙袋から隣で運転している高良へと移す聖。

「あのマンションに戻ったのは…部屋を片付けるためと着替えを取りにいくのが目的だったのですか?本当に?」

 そう言いながらチラと聖の膝の上の紙袋を一瞬見やる。

「ん?さっき、そうや―って言うたやろ?」

 なんでそんなこと聞くんやろ〜?と不思議そうな顔で小首を傾げる。

「…そうですか。それなら良いんですけど……」

 小さく呟きながら車を停車させた。

「―着きましたよ、戸倉さん」

「やっと着いたか―。ほな、送ってくれておおきにな、高良」

 ふわりと笑顔で車から下りる聖。
 そして、紙袋と一緒に沢山の荷物を抱えながら神島家の中へと入っていく。

「良かったですね、戸倉さん…ようやく渡せるんですね」

 ツリーの脇に大事そうに置いてあったクリスマスプレゼントの存在を知っていた高良は、小さく微笑んだ。






「聖…一体何処に居たんだ?」

 二人で使いなさい―と、あてがわれた部屋の襖を開けた途端、仁王立ちに立っている弓生が居た。こうして改めて見上げると身長差がかなりある。しかもいつもよりトーンが低い上に表情が余りに怖いので、逆に明るく答えてみる聖。

「ユミちゃん、ただいま〜!今日も寒かったなぁ」

「聖!ごまかすな!」

 いくら待ってもホテルに戻ってこない―。
 あの後、中央に追われた聖が万が一のことになっていたかもしれない―。
 もし聖が殺されていたら―と、どれほど弓生が心配したことか―。

「かんにんな、ユミちゃん…」

 弓生が真剣に怒る様を見て、聖は素直に謝る。

「この一日、お前は一体何処へ寄り道してたんだ?何をしていたんだ?…まぁあらかた予想は付いているが」

 高良ともすれ違いで連絡の取れなかった弓生。聖が見つかったと知らせを受けたのは、ほんの数時間前。
 弓生が何も状況を把握していないのも仕方のないことである。
 次々に浴びせられる質問に、聖は静かに答えた。

「…オレらのマンションや」

「俺達の?」

 うん―と頷くと手にしていた荷物を、ドサリと部屋の奥に置いた。

「ほら、片付けもせんならんかったし、此処にしばらく居るなら着替えとかも必要やろ?そういう細かいことしてたら、えらい時間食ってしもうたんや」

 掴まったら殺されると言う状況で、家に戻って片付けをしてたとは―。
 お気楽だとは分かっていたが、まさか此処までとは…。
 弓生は呆れるように溜息を吐いた。

「だったら俺にだけでも連絡してこい」

「せやな〜、それは迂闊やったわ…。ホンマ、かんにんな…ユミちゃん」

「まぁ、無事ならそれでいい…」

 聖が無事に戻ってきた―。
 いつもと全く変わらない様子で―。
 そんな他愛もないことなのに、弓生はホッとしたように微笑んだ。
 その笑顔は聖が行方不明になったと知らされてから数えて、初めての―。

「寒かっただろう…兎に角座れ」

 弓生に促され腰を下ろす聖。

「けどな、戻らなアカンかったのは、どうしても取りに行かなならんもんがあったからなんや」

「取りに行くもの?」

 不思議そうに眉間に皺を寄せる弓生。

「うん!これや」

 言いながら笑顔で紙袋を渡す。それは弓生にも見覚えのある紙袋―。
 部屋のクリスマスツリーの脇に大事そうに置いてあった―紙袋。
 見つけたときは、聖から自分へのプレゼントであろうと言うことは予想していたが、まさかこれを取りに行くのが一番の目的だったのか―。

「これな、クリスマスプレゼントなんや―。ユミちゃんへのな」

「聖」

「…まぁ、クリスマスからは、ちぃ〜っとばっか遅うなったけど」

「少し…か?」

 今は一月。意地悪く微笑むと、聖は照れるように笑った。

「細かい事は気にすんなや…。ほら、開けてみ?」

「あぁ…」

 呟くと弓生は紙袋から綺麗に包装された包みを取りだした。
 そしてガサガサと開け、中から出て来たのは―。

「…マフラーか」

「どうや?良い色やろ?ユミちゃんにピッタリやと思うんや!カシミア100%やからな♪」

「あぁ、良い色だな」

「気に入ってくれたか?」

「あぁ…気に入った。―ありがとう、聖」

 その一言で全ての苦労が報われた様な気がした聖。
 嬉しそうに笑い掛けると弓生も微笑み返す。そして、早速首に巻いてみる。

「うん!えぇやん―ごっつぅ似合うとるで♪」

 聖は嬉しそうに笑った。それからフワリと笑い――。

「メリークリスマス、ユミちゃん」

「メリークリスマス。――聖」

 二人はしばらく微笑みながら見つめ合った。
 クリスマスを過ぎても行き場の無かったプレゼントは、こうしてようやく弓生の元へと届いた。
 そして、空からは静かに雪が舞い落ちてきたのだった。






〜終〜





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拍手からの移動です。
ずっと気になってたんです。聖の買ったあのマフラーがどうなったのか!?
ユミちゃんにあげたのかどうかが!
皆さんからも忘れられている存在かもしれませんが、私はず〜っと覚えてました!
だってマフラーを買った時の聖ってすんごい可愛かったんですものvvvvvv(≧∇≦)
だからどうしても聖に渡して欲しかった!!
おかげですっきり★(笑)

掲載 2006.01.17
再UP 2008.11.22