今日はみんなでたこ焼&お好み焼きパーティをすると、聖は朝から大張り切りだった。
なぜなら明日は弓生の誕生日。
一日早いが、明日は弓生を含め、みんながそれぞれ都合悪いため、今日が誕生日イヴパーティということにもなっている。
そのパーティの準備も一段落ついた聖は、珈琲を手に弓生の隣に座る。
…とはいえ、リビングのテーブルの上にはたこ焼器だのホットプレートだのお皿だのが場所を取ってるため、テーブルに置くスペースが無く、それぞれカップは手に持ったままだ。
弓生はといえば、いつものように本を読んでいる。片手がカップで塞がっているというのに器用だ。
―(一体どうやってページを捲っとるんや?)
そんなことを思いながら、聖はチラッと弓生を見た。
「なあ、ユミちゃん」
「なんだ?」
「楽しみやな、誕生日パーティ」
「…そうか?」
「うん、ごっつぅ楽しみやー。それに考えてみたらみんなで会うのって久し振りやないか?」
「そうだな」
ぶっきらぼうに答えると、聖が弓生の手から本を掠め取る。
思わず眉を顰める弓生。
「…なにをするんだ」
「もうすぐみんな来るんやから、本はおしまいや。あとでゆっくり読めばええやん」
ならば全員が揃うまで何をしようと個人の勝手だ…と思うものの、「な?」と笑顔で言われ、仕方ないと言った表情で読書は諦めた。
そして珈琲を口に運び、空いた手を聖の肩に置くと、優しく抱き寄せた。
始めは驚いた表情をして弓生を見つめていたが、聖も嬉しそうにそのまま身体を預けることにした。
「ところで今日は誰が来るんだ」
「えっと、今日はな…」
指折り数えながら聖が元気良く答えた。
「来るのは4人で、ユミちゃんとオレを入れたら6人や」
「4人?」
―(三吾と佐穂子と成樹までは予想が付く。そしたらあと一人は誰だ?)
そんな弓生の疑問に気付いたのか、聖は聞かれてもいないのに答える。
「今日はな、彩乃ちゃんも来るんやて。せっかくやから誘ってやり?って成樹に言うたんや」
―(なるほど)
と弓生は思う。
だが果たして普通の女子高生が、この面子の濃さに付いてこれるのか。
「楽しみやなー。ホンマ楽しみや」
でも隣にいる相棒は、心から楽しみといった感じなので、水を差すのは止めておいた。
「そんなに楽しみなのか?」
「うん!やっぱり大勢で食うと賑やかで楽しいやんか」
大きく頷いてから、聖は手にした珈琲を口に含む…が、慌てて訂正した。
「あっ、でももちろんユミちゃんと二人でメシ食うのもええけどな」
聖はそう言って眩しいほどの満面の笑みで微笑んだ。
―別に聞いていないのに、と思いつつも聖の気遣いに弓生は口の端を上げた。
「そろそろかな?」
時計をチラリと見てから、聖は立ち上がった。
「どないする?それも持ってこうか?」
どうやら既に空になっている弓生の珈琲カップを指しているらしく、弓生は頼むと渡した。
ほい、とキッチンに姿を消し、数分後にエプロンを外しながら戻ってきた聖の手を取る弓生。
「ユミちゃん?」
いきなりどうしたのだろうと、聖は小首を傾げた。
―(今日のユミちゃんはなんや触りたがりっちゅうか、スキンシップが多い気が…)
珍しいこともあるもんだと、聖は単純に思った。
―(まあ別に嫌やないし…っちゅうか、逆に嬉しいけどな)
ただ、このあと自分はどう反応したらよいのかが、慣れていないだけに分からない。
すると弓生はそのままグイッと手を引き、聖を自分の膝の上に座らせる格好にして後ろから抱き締めた。
「え?ユ、ユミちゃん!?」
思わず立ち上がろうとする聖の腰を掴み、それを阻止する。
そしてもう片方の手がGパンのベルトとファスナーを器用に下げると、有無を言わずに下着の上からまさぐられる。
「えっ!?ちょっ、ユミちゃん、んあっ、なに?!?」
なにが起こっているのか理解する暇さえ与えられずにいたら、下着の上から撫でられ、思わずビクン…と動く。
「あぁ……」
思わず声を漏らしてしまい、慌てて両手で口を塞ぐ。
「いやや…ユミちゃん、みんな来るって」
なんとか阻止しようとするものの、力が入らない。
下着の上からだというのに弄られているのは感じやすい所ばかりで、弓生の愛撫で既に身体中が火照ってきて…。
…と、今度は下着の中に手が入ってきて、直接聖を扱き出す。
「……っ」
生温かい掌の感触に聖は腰をひねって逃れようとする。が、しっかりと抱え込まれていてはそれが出来ない。
そしてすっかり勃ち上がったソレの根元をギュッと握られた。
「いつっ…!!ユミちゃん、痛い」
痛さでじんわりと涙が滲む。
「もっ、やめ…」
だが弓生は止めるどころか顎を掴んで自分の方を向かせると、深い口付けを送った。それから首筋へと舌を這わせる。そしてTシャツをたくし上げ、背中の至る所に痕を残して行く。
その度に聖は、感度の良い身体をビクンと震わせる。
「…っ、あう」
弓生は握っていた根元の手の力を弱め、逆に先端を摘んだり、扱いたりする。
そしてもう片方の手で脇腹を撫でながら胸の突起を探り当て、キュッと摘んだ。
「……ぁ…っ…やめっ……っ…」
弓生の手の愛撫だけで激しく責めたてられ、既に聖は限界に達している。
それでも嫌だというようにかぶりを振る。―が、込み上げてくる欲望には勝てず…。
「…ユミちゃっ…もうっ……っ…あかん」
ビクッと身体を震わせ、ついに弓生の掌の中で白い蜜を吐き出した。
聖はボォッ…としながら弓生に身体を預けたまま、はあはあと大きく息をしていた。
白濁とした愛液が惜しげもなく溢れ出る。
吐き出された蜜で下着が濡れる感覚は、気持ち悪くて苦手だ。たとえ生理的には気持ち良いとしても…。
聖はなにが起こったのか理解できなくて、意識朦朧のまま、ただ、乱れている呼吸を治すことに集中していた。だが―。
「早いな。それに相変わらず感度もいい」
笑いも含んだような弓生のその言葉で瞬時に我に戻り、カッとなった聖は立ち上がった。
…つもりだった。
が、足に力が入らずふらついてしまい、思わず前に倒れそうになる。
そして目の前にあるテーブルに突っ込みそうになった聖を、弓生が後ろから抱き止める。
「いきなり立ち上がるからだ」
「…離せや!!」
肩越しに振り返る聖は、弓生を睨む。
その目には涙が溜まっている。
悔しくて恥ずかしくて…それでも……。
なにがなんだか分からなくて、気持ちがぐちゃぐちゃになってしまう。
「聖?」
「アホ!もうすぐみんなが来るって言っとるのに…なにしとるんや、ユミちゃんはっ!!」
なんとか弓生の手から逃れて距離を取り、再び睨む。
…と、ここで自分の瞳に涙が溜まっていることに気付いた。
だが今は絶対に泣きたくなかったので、グイッと腕で乱暴に拭った。
「大体、途中で誰か来たらどないすんねん」
「来たら途中で止めていた」
「そうゆうことやないやろ!!」
「そうだな。途中で止めていたら辛いのはお前だしな」
「せやからそうゆうことやないわ!!」
「だが、お前だって感じていたじゃないか」
「……ッ!!」
全くその通りなのだが、今のような一方的なのは嫌いだ。
聖は俯き、ちゃう…と呟いてから顔を上げ、キュッと口唇を噛み締めた。
そして足元にあったクッションを思い切り弓生に向けて投げ付けた。
顔にぶつかる前に手で阻止したが、クッションを除けて目にした聖は両脇で拳を握っていた。
そして大声で叫んだ。
「ユミちゃんなんか、大嫌いやー!!」
******
「くっそーくっそー!!なんなんや、ユミちゃんは!!」
シャワーを浴びながら聖は盛大に文句を垂れる。
「なんでいきなりあんなことするんや!!無理やりイかせてなにが楽しいんや!!あの変態っ!!」
シャワーの音で聞こえないのをいいことに、聖は言いたいことをぶちまける。
「それなのに早いとか感度とかなんとか……」
あのときのことを思い出したら、なんかもう段々恥ずかしくなってきて…。
色々な意味で身体中が熱い。
「謝っても絶対に許したらん!!」
身体中が火に炙られたように熱いので冷水に変え、頭から浴びる。
無理やりイかされたことも悔しい。
だがなによりも悔しいのは、感じてしまった自分。
もっともっと弓生を感じていたい。
そう、いつしか弓生を欲していた自分だった―。
それはどんなにシャワーで身体を洗い流しても変わることの無い気持ち―。
「………」
頭上から降り注ぐ冷たいシャワーの雨の中。
聖はキュッと口唇を噛み締めた。
「……ックション!!」
ついボーっとして頭から冷水を浴び続けていた聖は、自分のくしゃみでハッと我に帰る。
「あー、やばい。風邪引くとこやった」
こんなことで風邪引いたらアホやしなーと独り言を呟きながら慌てて風呂から出た所で、なにやら玄関が騒がしくなった。
誰か来たんかな…と小首を傾げた途端、たこ焼&お好み焼きパーティ兼、誕生日イヴパーティのことを思い出した。
「あ…アイツらや」
三吾が途中で佐穂子と成樹と彩乃を拾ってくると言っていたから、おそらく全員揃って玄関にいるのだろう。
「もうそんな時間か。…はよせんと」
聖は大慌てで着替えを身に付けた。
******
ピンポンピンポン―。
「………あれ?」
「どうしたの?」
「いや…」
しばらくそのままで待つ。―が、扉が開かない。
仕方ないので、もう一度押してみる。
ピンポンピンポン―。
だが、応答がない。
「あれぇ?」
「え?聖、いないの?」
「確かに今日だよな?」
「今日のはずです…。電話してみます?」
いつもならチャイムを1度鳴らしただけで、すぐに出てくるのに―。
ひょっとしてみんな揃って日にちを間違えたのだろうか。
などと、玄関前でゴチャゴチャ言ってる矢先に扉が開いた。
「かんにんや!待たせたな」
「聖」
「もう!待たせんなよ。間違えたかと思っちゃったじゃん」
「…ってか、風呂かよ」
「当たりや。よう分かったな」
さっぱりとした表情で頭にタオルを乗せ、前髪から雫をポタポタと垂らしながらでは、風呂上りというのが一目瞭然である。
「普通分かるわよ」
佐穂子が呆れた表情で小さく溜息を吐く。
その横では成樹が口を尖らせている。
「なんだよ。聖が時間厳守って言ったんだろぉ!?」
「せやからかんにんて。まあ立ち話もなんやし入りや。もうパーティの準備は万端やで」
「じゃあお邪魔しまぁす」
「せや、ユミちゃんリビングに居らんかったら部屋やと思うから、呼んどいて」
「うん、分かった」
口々にお邪魔しますといいながら、案内されずともリビングの方へと足を向ける。
―と、一番後ろを歩いていた三吾がリビングに入る手前で振り返り、玄関の鍵を閉めていた聖に話し掛ける。
「俺らが来るって分かってんのに風呂ねぇ…」
「別にいつ入ってもええやんかー。それにな、オレは穢れない心と身体でお前らを出迎えたかったんや」
「よく言うぜ。身体は毎晩穢れまくってるくせに」
聞こえないはずの小さな声でボソッと呟いたのに、背中に膝蹴りが飛んできた。
「…ってぇ!!なにすんだよ、いきなり」
「なんかお前がアホなことゆうからやろ!」
さすが鬼の聴力…と、褒めている場合ではない。
「大体毎晩ヤるわけないやろ!いくらオレかてそんな体力ないわい!なんせユミちゃんとヤったら1回で終わった試しはないしな。それに昨日はヤっとらんわい!」
誰もそこまで聞いてはいないし、そこまで暴露しろとも言ってはいない。
「二度とそうゆうこと言うなや、ボケ!!」
まあこのようなやり取りは、いつものことである。
だが、なぜかいつもと違うのは―。今日の聖はいつもの照れて怒っているのではなく、本当に怒っているようで…。
―(こりゃなにかあったな)
一目瞭然である。
聖はむっと口唇を曲げ、突っ立ったままの三吾の横をさっさと通り抜けようとした。―が、リビングの扉に手を掛けたまま、その場で立ち止まった。
「どした?」
「かんにん…。ただの八つ当たりや」
聖はポツリと呟いた。
その日のパーティは楽しく過ごした。
聖はいつも以上に張り切り、明るく大騒ぎをしていた。
だが、どことなく弓生と聖の感じが変だった。
…というか、ほとんど会話をしていない。
それどころか、聖はほとんど弓生を見なかった。
「もうこんな時間か。ごっそさん。じゃあ俺らそろそろ帰るわ」
「そうね」
「ええ!?もう帰るんか?まだ早いやんか」
「…でも」
「せや!なんなら今日はみんな泊まっていけばええ。布団足りひんけど、オレら男はその辺で雑魚寝して、佐穂子と彩乃ちゃんは俺のベッド使ったらええ」
「ありがと。でも悪いけど私はパス。明日大学1限目からあるし、まだ課題終わってないのよね…」
―というより、好きな男の部屋に泊まれるワケが無い。
たとえ相手は自分に対して恋愛感情がないとしても。
こうゆう所はムカつくほど鈍感だ。
だがそんな鈍感な所も好きなのだから、仕方が無い。
「そっか…。ほな仕方ないな。成樹は?」
「俺もパス。今日はコイツ送って、そのまま実家に泊まるつもりだし」
「すみません…。今日はご馳走様でした。また今度、誘ってあげてくださいね。こう見えてお兄ちゃん、戸倉さんちに来るのを楽しみにしてるんですよ」
「余計なこというなよ!」
「だってすごい喜んでたじゃない」
「だから言うなって!」
もう一組のバカップルが言い合いを始めたので、聖は視線を移動させた。
「ほな…」
「俺も今日は無理」
聖の視線が自分へと移る前に、三吾は断った。
「ええー!!なんでやー?お前いつも暇しとるやないかー」
「っ、何気に失礼なヤツだな。つぅか俺だって忙しいときもあるんだよ」
「ほんまに?」
「ああ。実は明日、御景家と繋がりのある所に挨拶に行かなきゃいけねんだよ。本当は面倒くせえけどな」
「そっか。次期当主も大変やな」
「でも俺、その家が何処にあるか知らなくてさ。そしたら兄貴の部下が明日俺のアパートに迎えに来るってことになって…」
「それやったら無理やな」
「それより、弓生とちゃんと仲直りしろって」
仕方ない、諦めるかーと大きな声で独り言を言っていたが、三吾の言葉でピタリと動きが止まる。
「え?」
「そうそう。二人が喧嘩してると、なんかこっちまで調子狂っちゃうのよねー」
「別に喧嘩なんかしてないで」
訂正しているつもりだが、説得力ゼロだ。
「よく言うわよ。言っとくけど、バレバレよ」
「……バ、バレバレ?」
「うん、バレバレ。前から思ってたけどさ…聖ってさぁ、落ち込んだとき程、カラ元気になるときあるよなー」
年下の成樹にまで言われ、聖は一気に黙る。
因みに弓生は食事が済んで、早々に自分の部屋に戻っているため、この場にはいない。
「…みんなして言うことないやろ」
俯いて小さく口唇を尖らせる聖を見て、子供かよと思いながら三吾は立ち上がった。
「じゃ、またな」
「ちゃんと仲直りしろよ」
「じゃあね、聖。美味しかったし、楽しかった。またね」
ご馳走様―と言いながら、聖に手を振り、みんなは帰っていった。
そんな後姿を見ながら、聖は小さく息を吐いた。
―仲直り
そんな簡単な言葉では片付けられない。
だって………。
聖は静まり返ったリビングのソファでひとり、膝を抱える。
時折、弓生の部屋の方向をチラリと見ては、また視線を自分の足元へと戻す。
同様のことを何度か繰り返してから、聖は立ち上がった。
そして意を決したようにノックしてドアを開けた。
「ユミちゃん、ちょっとええか?」
「聖」
椅子に座ったまま身体ごと振り返る弓生。
「ユミちゃん……その」
部屋の入口で突っ立ったまま言葉を探している聖の前に、気がついたら弓生が立っていた。
そして聖が口を開くよりも先に、弓生の方が言葉を紡いだ。
「さっきはすまなかった」
弓生の素直な謝罪に、聖はううんというように首を横に振る。
「オレもパーティのとき、嫌な態度取って、ほんまにかんにんや。…せっかくのユミちゃんの誕生日パーティだったのに」
「いや、俺が悪かったから、お前は謝る必要などない。……入るか?」
部屋に入るよう促された聖は素直に従うと、ベッドの脇に腰を掛ける。
そしてその隣に弓生も腰を下ろす。
しばらくの沈黙の後、聖がポツリと口を開いた。
「変なこと聞いてもええか?」
「…なんだ?」
「さっき、なんであんなことをしたんや?」
「……」
「あっ、やっぱええ。別に言いたくなかったら…」
「そうだな。簡潔に言えば、あのときのお前に少し嫉妬した。凄く嬉しそうで可愛かったからな」
「可愛いってなんやそれ。……ちゅうか、それだけ?」
「あとは…好きなヤツを苛めたくなる心理に駆られた。すまんな」
「え?今なんて?」
「すまんな」
「ちゃう!その前や!どんな心理や?」
瞳をキラキラさせながら、聖は近寄ってきた。
弓生はしまったと思いながら、訝しげに近寄ってくる聖を見つめた。
「…聞こえていたんだろう?」
「ううん。ぜんっぜん聞こえんかった」
悪戯っ子のような微笑で、聖はかぶりを振る。
でもいくら待っても二度目は言ってくれなさそうだから、諦めた聖は急に真顔になって俯いた。
「ほんまはな…」
「ん?」
「ほんまはさっき、本気で嫌やなかったんや。そりゃ無理やりイかされるんは嫌やけど、せやけどユミちゃんやから嫌やないし。嫌やけど嫌やない…せやけどあん時は嫌で」
「すまんが聖。もう少し分かりやすく言ってくれ」
「せやからっ!!」
聖は俯いていた顔を上げた。
そして口を開こうとしたが――。
「やっぱりええ」
「なんだそれは」
「もうええやん。それより明日、誕生日やろ?なんか欲しいものあるか?」
「いきなりなんだ…欲しいもの?」
「あげる本人に聞いたら反則やけど、オレ、なんも思い付かんのや。なんかもうあげつくしたって感じやしな」
確かに毎年誕生日プレゼントを渡していたものだから、もうアイデアが尽きたらしい。
「なにがええ?明日ユミちゃんが出掛けとる間に買ってくるわ」
「そうだな……欲しいものならある」
「なになに?」
弓生が自分から欲しいものを言うなんて滅多にないものだから、聖は身を乗り出す。
すると弓生は聖を見つめた。
「お前が欲しい」
「………へ?」
ワンテンポ遅れて聖が反応する。
思わず目をパチクリさせる。
「なんて顔してるんだ」
「ちゅうか、ユミちゃんこそなんてこと言うんや!アホちゃうか」
「お前が欲しいものを聞くからだろう」
「せやけどそんなこと言うなんてユミちゃんアホや!絶対アホや!」
聖はプイッと横を見る。
「ユミちゃんはアホのカタマリや」
―そこまでいう必要はないのだろうが。
予想通りの反応に、弓生は微笑した。
「分かった。他に欲しいものを明日までに考えておく」
すると―。
「べ、別にあかんとは言うてへんやろ」
「…聖?」
「さっきも…さっき言おうとしたんも……。ほんまはもっと時間がある時が良かった」
「どういう意味だ?」
「せやから……分かるやろ?」
「もしかして…あの続きをして欲しかったのか?」
直球で聞かれ、聖は思わず真っ赤になる。
が、コクンと小さく頷いた。
「オレもユミちゃんが欲しくなってしもたんや…」
その言葉に弓生は優しく抱きしめる。
「…あまり可愛いことを言うな。理性が効かなくなる」
「ええよ。そんなもんオレらには要らん」
そういって微笑む聖に、弓生はやんわりと口付けを送った。
啄ばむ様なキスを幾度かした後、深い口付けへと変化する。
そしてそのまま押し倒される。―が、キスの嵐は止まらない。
「…っ、ユミ、……ちゃ」
「聖…」
******
「あっ……んっ、はあっ……」
軋むスプリングの音。
部屋に響き渡る甘美な嬌声と、くちゅくちゅという淫らな水音が馳せる。
繋がった箇所からとろとろと零れてゆくものが熱い。
絡んだ舌、絡まる手足、全てが熱い。
聖の太腿を伝って滴り落ちるモノは、自身のモノなのか、それとも既に弓生が中で放ったモノなのかすら、もう分からない。
激しい突き上げと共に、何度目かの欲望が聖の中に叩きつけられた。
「ぁあ…っ」
それでも弓生は繋がりを解こうとしなかった。
もう無理やと言いつつも、尚も揺さぶられると、聖の身体は限界だというのに簡単に熱を持つ。
「あっ、ん………っ、はぁ…ユミちゃっ…ん」
身体が悲鳴をあげようと、今はただ快楽に溺れたい。
もっともっと繋がっていたい。
だがここで、聖はふと理性を取り戻す。よく取り戻せたと自分で褒めてやりたいくらいだ。
そして嬌声をあげながら、聖は絡めている弓生の手をギュっと掴んだ。
「はぁっ、…な、なぁっ、ユミちゃ…?」
「なんだ?」
「今……っ、何時?」
―(時間?)
なぜこんな行為の真っ最中で時間なんか聞くんだろうと思いつつ、弓生は答えた。
「12時を少し回った所だ」
「そか…」
それを聞いた聖は、腕を伸ばすと首に回し弓生を引き寄せた。
そして口唇に触れるだけの口付けをして、ふわりと微笑んだ。
「誕生日おめでとう、ユミちゃん」
その言葉に思わず弓生の頬が緩む。
「ありがとう、聖」
そしてお返しとばかりに、弓生からもキスを贈る。
今度は触れるだけのキスではなくて、僅かに開いた隙間から熱い舌が差し込まれ口の中を弄られる。舌を絡め取られキツク吸い付けられると、聖の身体がビクンと跳ねる。
「あぁっ…んっ」
「今年の誕生日は忘れられない。特別な日だな」
「なッ…んで…っ」
「お前の中で過ごせた」
確かに言葉通り、である。
その言葉に聖は思わず羞恥で顔が真っ赤になる。
「また…そないアホなことっ…言うてっ、…あんっ!」
突き上げられると共にずり上がっていく身体を引き戻される。
聖自身も必死で弓生にしがみ付き、快感に溺れる。
カラダを支配する感覚に思考さえ奪われていく。
「あんっ!!……んっ、はぁ……っ」
震えるほど愛しくて、苦しいほど幸せで―。
泣きたいくらい大好きで、大好きで、大好きで―。
「大好きや」
思わずそう呟くと、弓生が優しく口唇を塞ぐ。そして―。
「俺も…愛している、聖」
降り注ぐキスの嵐の中、聖はこの上なく幸せそうに微笑むのだった。
〜終〜
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