幸せになろう





 奪還の依頼で、ある片田舎までやって来た蛮と銀次。
 奪還の仕事は難なく終わり、裏新宿までその日の内に帰ろうとスバルを飛ばしていた時だった。
 窓を開けて顔を少し出し、外の新鮮な空気を吸っていた銀次が小さく呟いた。
「あっ…」
 その小さな呟きに、蛮はちらっと横目で銀次を見た。
「どした…?」
 すると銀次は嬉しそうに蛮の腕を引っ張り、外から見える建物を指差した。
「蛮ちゃん…蛮ちゃん!見て見てv…あれvv」
「お前…運転してる時は腕を引っ張ンなっつってんだろ…」
 そう言いながらも蛮は銀次の方に身体を寄せ、銀次が指差している方向にある建物を見た。
「あれって…」
「きょーかい…だよね♪」
 銀次がすぐ傍にある自分の顔に微笑みかける。
 至近距離で銀次に見つめられ、蛮の鼓動が早くなって来る。
「ねぇ…蛮ちゃん…」
「駄目だっ!!」
「う゛〜、まだ何も言ってないじゃん…」
 銀次がぷうっと頬を膨らませた。
「どうせあれだろ…『蛮ちゃんvちょっとだけ見て行こうよ♪』とか言うつもりだろうが」


―図星だった。


 当てられてしまった銀次は、ちぇっ…と言うように残念そうに窓から首を引っ込めた。
 それでもやはり気になるのか、見えなくなるまで教会をちらちらと見ていた。
 蛮はそんな銀次が可愛くて、スバルを停止させた。
「どっ…どしたの?蛮ちゃん…忘れ物?」
「しょうがねぇな…少しだけだからな」
「蛮ちゃん…えっ、じゃあもしかして…行ってくれるの?」
「せっかくだからな…でも時間ねえからマジですぐ帰るぞ?」
「うん!うんっ!本当に少しだけでいいんだvうわぁ〜いvありがとうv蛮ちゃぁんvv」
 銀次が感激の余り、運転している蛮に思い切り抱き付いた。
「おわっ…お前危ねえっ……って、まぁ…いっか」
 蛮は銀次の金色の髪を優しく撫でてから、そっとキスを落とした。






「うわぁ〜…結構広いんだね…」
「そうだな…」
 銀次は嬉しそうに走ると、後ろからゆっくりと歩いてくる蛮を見つめた。
「結婚ってここみたいな所でするんでしょ?」
「ん…でもまぁ、結婚の儀式っつったって教会だけじゃねえけどな」
「そうなの?」
「仏前結婚式っつーのもあるし、最近は逆に式をあげない新婚サンもいるしな」
「ふ〜ん…そうなんだぁ」
 銀次は納得するように首を上下に動かした。
「なぁ…銀次」
 呟くように声を掛けると、銀次が笑顔で蛮を見つめる。
「……ん?なあに…蛮ちゃん♪」


 蛮自身分からなかった。
 何故だか分からなかったが、場所と雰囲気が蛮をその気にさせるのだろうか…
 気が付いたら蛮は、ずっと胸に秘めていた思いを口にしていた。


「銀次、幸せに…幸せになろうな…俺達」
「…えっ!?」
 日の光がステンドグラスを通して蛮の顔を照らすので、その反射で銀次の角度からは蛮の顔がよく見えなかった。
 それが分かったからだろうか…蛮は言葉を続けた。


「これから先も俺達はケンカをすると思うし、俺はお前を何度も泣かせちまうかもしれない」
「…うん」
「でも、俺は…俺は、お前を世界中の誰よりも幸せにするから…絶対に…」
 蛮はスウッと静かに息を吸った。
「だから……」
「…だから?」
 銀次が微笑みながら蛮の言葉を繰り返した。
「死ぬまで俺と一緒に居てくれ」
 蛮のその言葉に銀次がクスッと笑う。
「あははv…蛮ちゃん、なんかプロポーズみたいだね♪」
「ボケッ!プロポーズだよっ!」
「えっ…」
「………」


 思いも寄らなかった蛮の言葉。一瞬の沈黙の間が2人の間を通る。
 蛮はガリガリと頭を掻いた。銀次はただ呆然としていた。
「プロ…ポーズ?」
 銀次が言葉を繰り返すと、蛮は照れを隠すかのように銀次を抱きしめた。
「蛮ちゃん…顔、赤い…よ?」
「うるせぇっ!ステンドグラスのせいだ!……で、返事は?」
「嬉しい…すっごい、すっごい嬉しいvvvv」
 銀次が蛮の背中に手を回し、満面の笑みで蛮を見つめた。
「オレは蛮ちゃんが好きだよ…蛮ちゃんが大好きvvv」
「ンなの知ってるよ…バーカ」
 蛮は銀次の額にコツンと自分の額を当てた。
 それから蛮はコホンと咳払いをすると、銀次を抱きしめたまま言った。
「天野銀次…お前は、美堂蛮を健やかなる時も病める時もどんな時でも生涯愛し抜き、永遠に俺の傍に居る事を誓いますか?」
 蛮のその言葉に、銀次は顔を赤くしながら答えた。
「はい、誓いますv」
 しかし、誓いの言葉を口にした後、銀次は蛮の胸に顔を埋めてしまった。
 静寂な空気が2人の間を通りすぎていく。
「ほら、今度はお前が何か言って、俺に誓わせろよ…」
 蛮が銀次の金色の髪を優しく撫でると、銀次は瞳に涙をいっぱい浮かべたまま、顔を上げた。
「えっ…!?銀…次…?」
 まさか泣いているとは思わなかった蛮は、突然の事に少し戸惑いながら銀次の名前を呼んだ。
 すると銀次は、泣きながらもにっこりと満面の笑みで蛮を見つめた。
「ごめっ…なんかすごい嬉しくて…そしたらっ涙が出てっ…来ちゃって…それが止まんなくっ…なっちゃってっ…ゴメン…ねっ…」
 そう言いながら必死で自分の涙を拭おうとする銀次。
 蛮は優しく微笑むと、銀次の頬に伝わっている涙をそっと拭った。
「蛮…ちゃん…」
 銀次はその蛮の手にそっと触れると、嬉しそうに微笑んだ。


 そして…


「美堂蛮…蛮ちゃんは天野銀次をこれからもず〜っと愛してくれて、ずっとずっと、ずぅ〜とオレの側にいてくれる事を誓いますか?」
 蛮の胸の中から出た銀次からの誓いを問う言葉―
「はい、誓います…」
 銀次を抱きしめながらの蛮の誓いの言葉―
「それでは、誓いのキスを…」
 蛮がそう言い瞳を閉じると、銀次もそっと瞳を閉じた。そして2人は静かに顔を近づけた。
 しかし、誓いのキスまであと1センチと言う時だった―






「貴方達、勝手に入り込んで、此処で一体何をして居るんですかっ!?」
 誓いのキス寸前でシスターが来てしまった。
「ヤベッ…銀次っ、逃げるぞっ!」
「うん、蛮ちゃんっ!」
「こら、貴方達、待ちなさいっ!」
 銀次の手を引いて逃げる蛮。
「あははっ、何か映画みたいだねv」
「映画…?」
「花嫁さんが結婚しようとした時に、奪いにくるって映画…確かあったよねv」
「バーカ、くだらねぇコト言ってる間に逃げンぞっ!」
「うんっ!」
 繋がれた手から伝わるお互いの気持ち…銀次はそんな気持ちがただ、ただ嬉しくて繋がれている手の力を強めた。






「あ〜…でもあとちょっとだったのによ」
 蛮が不服そうにスバルのエンジンを入れた。
「ね〜…あとちょっとで誓いのキスが出来たのにねぇ…」
 銀次は残念そうに助手席から見える教会を見つめていた。
 すると、銀次がハッとしたように蛮の方を振り向いた。
「じゃあ蛮ちゃん、ここでしようよv誓いのキスvv」
「此処でか!?」
「うんv」
 ロマンチックも何もねえなと思いつつ、にこにこしている銀次を見ると『嫌だ』とは言えないし、何より自分だって誓いのキスをしたかった。だから蛮はフッと微笑むと、銀次の頬にそっと手を触れた。
「じゃ、誓いのキスを…」
「うんv」


 蛮と銀次の唇がそっと重なる―スバルの中で誓いのキス。
 いつもしているスバルでのキスだが、今日のキスは意味合いが違う。蛮も銀次も、この上ない喜びに浸っていた。
 一体どれだけの時間、誓いのキスをしていたのだろう…
 しばらくして2人は、重ねていた唇を静かに離すと、嬉しそうに微笑み合った。


「銀次…」
「ん?」
「その…指輪は…クライアントから金もらったら買ってやるからな」
「本当?嬉しいv本当に嬉しいvvv」
 銀次が満面の笑みで蛮に抱き付いた。蛮も銀次をそっと優しく抱きしめた。
 そしていつまでもいつまでも2人は抱き合っていた。






「幸せになろうな…銀次」


「うん!幸せになろうねv蛮ちゃんvv」












〜The End〜

 






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蛮銀同盟に飾っていただいていた作品その3です。
これは初期では無いのですが、やっぱり恐ろしいねぇ〜…痛いねぇ〜…;;
こういう風にどっか避暑地などに行ってラヴる蛮銀も楽しいですv
私の頭では一応軽井沢にしてみました。(勝手にしろよ)
勝手に結婚式なんぞしちゃって、もうお前らってば(笑)

元・会員の皆様。こんなものを読んで下さって、当時は有り難うございました(礼)