銀次はよく俺に「好き」だと言う
朝起きてから夜寝るまでいつでも何度でも
「蛮ちゃん、大好き」と、言ってくれる
別にイヤじゃない
好きなヤツに“好き”と言われて、イヤなヤツなんて居やしねぇ
だがアイツは、俺だけじゃなく、誰に対しても同じように好きだと言う…
俺に対する好きと他のヤツらに言う好きとは違いがあるのだろうか…
何度唇を合わせても―
何度肌を重ねても―
アイツは微笑んで「蛮ちゃん、大好き」と言うばかり…
たまにでいいから―ごく、たまにでいいから
「好き」ではなく、「愛してる」と言う、言葉が欲しい
アイツの愛のカタチは…一体どんなカタチをしているのだろう…
そんな事を考えていたせいか、俺と銀次の手は醤油の前で正面衝突をした。
突然、触れてしまった銀次の手と俺の手―
思わず銀次の方を見たら、銀次も俺のコトを見ていやがった。
そして俺と目が合うと、嬉しそうに微笑んだ。
「蛮ちゃん、先いいよv」
「いや…お前、先に使え…」
「そぉ…?んじゃ、先に使うねv」
銀次は魚に数滴醤油を垂らすと、俺に醤油を手渡した。
「はい、蛮ちゃんv」
「サンキュ…」
銀次が笑顔だったもんだから、俺もつられて小さく微笑み返した。
いつもの話し声―
いつもの銀次との楽しい夕食―
それはいつもの変わらぬ風景―
でも今日は何故か少し違う…
俺が変なコト考えているからか?
だが、銀次の方もいつもの銀次と少し違う…
まるでお互い、言いたいことを言えないでいるみたいだ…
そんな…気がする…
「なあ…銀次」
いつもの銀次と違うコトも気になった俺は、銀次に呼びかけてみた。
「えっ…なぁに?」
当然のように俺の方を見る銀次と目が合い、また言い難くなっちまった。
だが、このままじゃラチが明かない。
俺は意を決して、先程の思いを口にした。
「あのよぉ…」
「ん…何?蛮ちゃん」
「お前は…その…俺のコト……」
俺はそこまで一気に言うと、最後まで切り出すことが出来た。
「俺のコト…その…好きか?」
銀次は不思議そうな顔をしていたが、笑顔で大きく頷いてくれた。
「うん、当たり前じゃんv」
「じゃあさ…たまにでいいから…愛してるって言ってくれよ」
俺―ナニ言ってンだ…バカだなあ…
だが一度口にしてしまったものは仕方ねぇ…此処は銀次の出方を待つか…
そんな銀次はと言えば―
「そんな…愛…してるなんて…恥ずかしいよぉ…」
銀次は顔を真っ赤にして俯いた。
アホ―言っちまった俺の方が何倍も恥ずかしいよ…
「なんでだよ。いつもは好きだって言ってくれるじゃねえか…それをちょっと『愛』に変えるだけで…」
うわ〜…無茶苦茶言ってンな、俺―
そしたら銀次が珍しく反抗してきた。
「そんなこと言うならっ…オレだって、蛮ちゃんに『好きだ』って、『愛してる』って言って欲しいっ!!」
そう言いながら、銀次の瞳は俺の瞳を真っ直ぐに射抜いた。
銀次のその瞳は正直…俺は弱かった。
「そ、そんなの、言わなくても分かるだろ?」
「分かんないっ!蛮ちゃん全然言ってくれないんだもんっ!じゃないと…じゃないと不安になっちゃうよ」
「銀次…」
そんなコトを考えていたのか…
バカ…俺の思いは全部お前にやってるっていうのに…
そう思いながら、俺は優しく銀次の金色の髪を撫でた。
「いいか?俺のは貴重だからな…ちゃんと聞いてろよ」
「うんv」
俺は嬉しそうに微笑んでいる銀次の頬にそっと手を触れると、耳元でそっと囁いた。
「俺はお前が好きだ…この世で一番愛してるよ」
「蛮ちゃん…v」
「お前は?」
俺の問いに、銀次は満面の笑みで答えた。
「オレも…オレも蛮ちゃんが大好きv世界で一番愛してるvv」
サンキュ、銀次。
俺はその言葉を聞けりゃ、充分だよ。
俺は感謝の想いを込めて、銀次にキスを贈った。
触れるだけのキスなのに―
銀次の気持ちが全部流れ込んでくるようなあったけえキスだった―
銀次…オレは、お前を―
誰よりも愛してるよ―
例えばこんな愛のカタチ
誰よりも愛してるくせに滅多に口にはしないヤツと―
いつも“好き”とは言うくせに“愛してる”とは照れて言えないヤツ―
それでも俺達の気持ちは繋がっている
時にはそんな愛のカタチがあってもイイと思う
だって、俺達は心から愛し合っているのだから
言葉なんて無くたって
一緒に居てやりたいと思う
一緒に居て欲しいと思う
それが、愛すると言うこと―なのだから…
〜The End〜
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